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榛葉昴の銀幕  作者: ペポ
第Ⅰ章 榛葉家騒乱編
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006 突然の襲撃

 家中に響いた銃声の後、家の中は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。


「なんだ……!?」


 僕はとりあえず腰を抜かしてしまった寧々ちゃんを抱きかかえるようにして部屋の中へと運び込んだ。なんとなく縁側にはいないほうがいい気がしたのだ。


 寧々ちゃんを部屋の奥へと運ぶと、さすがの寧々ちゃんも少し冷静さを取り戻していた。少なくとも腰を抜かして動けないなんてことは無い。よかった。


「昴君、今の音何……?」


「わからない……」


 そうわからないのだ。


 さっきは突然のことでドラマ等で聞きなれた銃声だと思ってしまったが、よく考えれば普通そんなものが日常生活で聞こえるはずがないのだ。


 おそらくドラマの見過ぎだ。


 そう、きっとさっきのは爆竹か何かの音だったのだ。


 いやまあ爆竹だったら爆竹だったで、なぜいきなり爆竹の音がしたのだという話にはなるが。


「銃声? ぽかったような……」


 あーあ。


 それ言っちゃうのね。


 寧々ちゃんによって僕の希望的観測はなくなった。


 そうですよね、さっきのあれ銃声ぽかったですもんね。


 だからこそこんなに家中が騒ぎになっているんだろう。


「寧々ちゃん、絶対ここを動かないで。変なとこにフラフラしないで。僕ちょっと様子見てくるから」


「そんな! 昴君それは危ないよ!」


「大丈夫だよ。ちょっと何があったか見てくるだけ。実際には誰かが爆竹爆発させただけかもしれないし」


 僕はそう言って寧々ちゃんを部屋に置き去りにし、音のした方へと向かった。




【榛葉稲一郎視点】



「困ったことになったのう」


 儂は足元に転がる警官二人を見下ろしながらため息をつきたい気分になった。


 こうなるに至った経緯を説明するかのう。


 十数分前、ここに転がっている警官二人がこの家にやってきた。彼らは儂に話があると言ったらしい。だが儂は継承式の最中で、代わりに武藤が応対に出たのじゃ。するとそこで激怒したこいつらがいきなり拳銃を発砲したらしい。榛葉流の達人である武藤は彼らの銃弾を受け流しなんなく拘束、こうなると至ったというわけなのじゃ。


「なんて短気な奴らじゃ……」


 引き金軽過ぎじゃろ。


 そんなんで警察務まるんか。


 本当に最近の若者はいかんのぅ。


 応対に出たのが武藤だからよかったものの、他の者だったら危なかったぞ。


「…………」


 そんなことよりも、じゃ。


 これからどうするか。




 儂が地面で昏倒している彼らの横で儂が思案していると、武藤がやってきた。武藤はいつになく険しい表情をしていた。


「当主様、指示を」


「うむ」


 儂は少し考え込む。


「貴様の言っていたことは確かか?」


「はい。気絶させる前に誰の手先かと尋ねたところ、警視総監と口走っていやした」


「『国枝』か……」


 儂はため息をつく。


「すいやせん。あっしがあの時、国枝のガキと坊ちゃん方の接触を防げていれば……」


「謝ることは無い。いずれ勘づかれるとは思っておった。時間の問題じゃった」


 現警視総監、国枝。


 奴の孫が昴達とドンパチを起こしたと聞いた時、覚悟はしていた。


 不良なんぞをやっている奴の孫が何かに気付いたとは思っておらん。大方国枝が孫の話を聞いて、『銀髪』『榛葉』の単語から気付いたとみていいじゃろう。


「武藤。辺りの様子はどうじゃ」


「囲まれてます。数はおよそ一個小隊」


「うむ」


 儂は今、さぞ険しい顔をしている事じゃろう。鏡を見なくてもわかる。


 どうやら国に気付かれた。


 ここまでかのう。


 とっさに脳内に蘇る思い出の数々。


 儂は決意する。


 榛葉流の名に懸けて、絶対に守りきって見せよう。


「武藤。譲原支部に連絡を頼む。その後は昴と翔をここから逃がしてくれ。二人の事は任せる」


「当主様は……」


 武藤は無言で儂の事を見つめるが、儂は黙って見つめ返す。もう武藤とも付き合いが長い。目で見るだけで儂の言いたいことはわかるだろう。


「……わかりました。この命に代えても、昴坊ちゃんと翔坊ちゃんのことは守ります」


「ありがとう」


 儂は信頼できる弟子に大事を任せ、家の中の騒乱を収めに行くことにした。




【榛葉昴視点】



 僕が音のした入り口の門付近へと行くと、じいさんを筆頭に榛葉家の要人達が慌ただしく行きかっていた。皆一様に緊迫した表情を浮かべている。僕はそのことからさっき聞こえた音が爆竹ではなかったのだと悟った。


「じいさん! 何があったんだ!」


 僕は近くで周りに険しい表情で指示を出すじいさんの元に行き、尋ねた。


「……! 昴か」


 じいさんは僕が突然現れたことに少し驚いた様子だった。


「お前さっきなぜ継承式におらなんだのじゃ」


「今はそんなこといいだろじいさん! さっきの音は何だったんだ? いったいどういう状況なんだ? 教えてくれよ」


 僕がそう尋ねると、じいさんは少し困ったような表情を浮かべた。


「どうやら警察か日本国軍によってこの家は包囲されてしまったらしい」


「はぁ!?」


 僕は思わず間抜けな声を出してしまった。


「え、待ってどういうこと? さっきの銃声ってそいつらが撃ったの? え、え、なんで? なんでいきなり?」


「わからん」


「わからんって!」


 僕はじいさんに掴みかかりたい気分になった。


「わからんって何だよ! だってそれってどうせうちがヤクザやってたからなんじゃねーのかよ! なんで知らん顔するんだよ! ふざけん――」


「――黙れ!」


 いきなり僕はじいさんに殴られた。


「当主に向かってその口のきき方はなんじゃ!」


「口のきき方とか言ってる場合かよ! 今やばいんだろ? どうするだよ! どうやって家の連中守るんだよ!」


 僕は怯まずじいさんに言い返すが、じいさんは今まで見た中で一番怖い顔をしていた。こんな怖いじいさんは見たことがない。


「……昴。榛葉家の家訓は知っておるだろうな」


「……? いきなりなんだよ? あれだろ、『守りたいものは、守るべきもの』ってやつだろ?」


「そうじゃ」


 じいさんは僕に背を向ける。


 僕はこの家訓の意味がよくわかっていない。


 だってよくわかんなくない?


「儂はその家訓を全うするまでじゃ。昴は武藤と翔と一緒に逃げなさい」


 すると突然誰かに肩を掴まれた。


 振り返ると武藤だった。彼もまた険しい表情をしていた。


「よし、皆の者聞け! 現在我が家は賊軍によって侵攻を受けておる。今まで培ってきたものをここに示し、自らの居場所を守って見せるのじゃ! 継承式に来ておった来賓方は抜け道から逃がして差し上げろ。全員配置につくのじゃ!」


 じいさんがそう指示を出すと、榛葉家の門下生(組員)達が各々猛りの声を上げ、使命を帯びた表情で散り散りになっていく。


「さあ、昴坊ちゃん、あっし達も行きやしょう」


「あ、ああ」


 僕と武藤はじいさんをそこに置き去りにし、その場を去った。



 僕はこの時の事を一生後悔することになる。


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