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榛葉昴の銀幕  作者: ペポ
第Ⅱ章 冬峰学園編入編
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032 銀色の拳


【榛葉昴視点】



 秋宮と渥美が闘っている頃。


 僕はというと。




 やばいやばいやばい。


 こいつめっちゃ強い。


 予見能力だと覚悟してたんだけど、やっぱ覚悟だけじゃだめだわ。僕の攻撃がことごとく躱される。相手の攻撃が避けられない。チートだろ。


 僕の目の前にはほとんど息を乱していない男が一人。剣山のようにツンツンとした茶髪にシンプルなデザインのピアス。そんなチャラそうな外見の上、手に握られているのは金属のバット。完全に不良だ。こんな奴が風紀委員だとは。


 普段の僕なら絶対にお近づきになりたくはない人種の人なのだが、今回は事情が事情なだけに引けない。


「てめえ弱過ぎだって。俺に勝てるわけないだろ。さっさと引けよ」


 金属バットを巧みに弄びながら、そう警告してくる館林欧堰。なんでも高校野球界では有名な選手らしい。派手な外見は連盟の反感を買っているようだが、実力はプロからスカウトも来るほどだとか。


 だけどそれだってどうせ超能力サイキック使ってんだろ?


 そんなのスポーツマンシップの欠片もないじゃねーか。


「僕は不良が嫌いなんだよ」


 怖いし。


「髪の毛銀色にしてる奴に言われたくねえ。そんなのこの学園にだってほとんどいないぜ?」


 そう茶化す館林。


 ほっとけ。これは昔患った大病の後遺症らしいんだよ。触れてくれるな。


「髪の毛が銀色なら不良だとか思うなよ」


 銀髪の好青年が出てくる漫画なんて山ほどあるだろうが。


「そんなくだらない論争がしたいんじぇねえんだよ。あっち見ろ。渥美とあの花火女は随分派手にやりあってるじゃねえか。俺達ももっと派手にやろうぜ」


 僕も館林につられてチラッと秋宮達の様子を見ると、秋宮の放つロケット花火と渥美の放つ鉛筆が飛び交っていた。危ないな。さっきから秋宮のロケット花火が流れ玉ならぬ流れ花火としてこっちに飛んできたりしている。あれ地味に狙いが定められないから共闘には向かないと思うんだよな。


「女なんかには負けてられねえぜ!」


 僕の思考が横道に逸れている隙に、館林は襲いかかってきた。構えた金属バットを振りかぶって、僕の眼前に迫る。


「ちっ」


 僕はそのバット攻撃を回避しようと体を半身ずらすが、館林の攻撃は僕の回避する先へと流れるように移動する。


 避けられない!


「ぐっ……!」


 左肩へと振り下ろされた金属バットをまともに喰らう。尋常じゃない痛み。衝撃で肩が脱臼したんじゃないかという懸念が生まれる。


 崩れた体勢を、だが瞬時に立て直す。敵の第二撃に備え防御の姿勢をとる。そんな僕の様子を見て攻撃を仕掛けてこない館林。彼は感心したように僕の様子をじっと観察している。


「なかなか戦い慣れてるじゃねえか」


「……そりゃどーも」


 別に褒められたって嬉しくもなんともねーよ。


 僕は戦いなんかには慣れたくないんだよ。暴力の無い平和で安定した生活が送りたいんだ。


「ククク、褒めてるんだ、もっと嬉しそうな顔しろよ。……それよりもさっきのあれ本気か? 風紀委員会をぶっ潰すっての」


「……本気だよ」


 僕の返答に笑い転げる館林。


「ククク、まじかよ! たった二人で何ができる! 風紀委員会3番手と呼ばれてる俺にも歯が立たないのに、委員長や副委員長に勝てると持ってんのか? あめえよ」


「別に委員会を潰すのは武力だけじゃないだろ。頭使えよ」


 僕の言葉に苛立った館林はバットで地面を叩いて威嚇する。


「……てめえこそ頭使えよ。風紀委員会に何人所属してると思ってるんだ? それに、仮にも俺達は学園公認の委員会なんだぜ? てめえら一個人がどうこうできる問題じゃねえんだよ」


「できるさ」


 僕があまりにも軽く言うので、館林は反論する。


「どうするってんだ」


「秘密だ」


 実はまだ何も考えてないけど。これから考えるんだけど。


 まあそれでも問題の根源は風紀委員会の存在自体じゃなくてこの学園における彼ら超能力者サイキッカー達の在り方だからな。その辺の考え方を変えていかないと何にもならないだろ。今んとこ良い案も浮かんでないしこれからも浮かばなそうだけど。


「お前らさ、自分達の居場所を作る為だか何だか知らないけど、暴力振るって皆を従わせて、それで作った居場所でいいのかよ。周りから望まれてない場所に居座り続けてそれでいいのかよ。周りと打ち解けられないような居場所でいいのかよ」


 僕は偉そうに説教できるような出来た人間じゃないけど、紡がれる言葉は止まらない。


「お前らは、自分達の居場所を守る為とかカッコつけて他人の居場所を奪ってるだけだ。お灸を据える? それが居場所を守ることにつながると思ってるのか? 禍根を生むだけじゃないか。いもしない敵に怯えて、自分達で敵を作ってただけじゃないかよ」


「…………」


「そんなお前達のやり口が気に入らねー。超能力者サイキッカーがどれほど世間で忌み嫌われてるかなんてわかんないけど、自分達が周りを忌み嫌ってたら良好な関係が保てるわけないだろ。まずは自分達が受け入れて、それで受け入れてもらえよ。それが世間ってもんだし、関係ってのはそうやって築いていくもんだろ。あまったれんな」


「……何がわかる。超能力者サイキッカーでもないお前に、何がわかるってんだ!」


超能力者サイキッカー無能力者ノーマルも大して変わらねーよ! 超能力者サイキッカーだってこと言い訳にして逃げんな!」


「逃げてねえ!」


 バッと動き出す館林。力強く握られた金属バットを振りかざし、愚直に突っ込んでくる。もうそんな攻撃は何回も見てる。初撃は躱せてもその先を読まれて絶対に攻撃を当てられる。どうすればいい?


「榛葉流無刀奥義『返リ咲』!」


 僕が使える唯一の榛葉流奥義。相手の踏み込みのタイミングに合わせてこちらも踏み込むことにより、相手の勢いとこちらの勢いを合わせた威力でカウンターが放てるという代物。相手の動きを見極める天性の感覚がものをいうが、剣術の才能のない僕にもこれだけはあったようだ。


 相手の喉元目掛けて繰り出す拳。が、やはり館林はその攻撃を最小限の動きで回避すると、そのままバットを振り下ろす。僕は精一杯体幹をずらすが、避けれらない。


「くたばれ!」


 脳天に振り下ろされる金属バット。視界が大きくぐらつき意識が飛びそうになる。直後襲う痛烈な痛み。霞みかけた意識の中で、館林から距離をとる事だけは忘れない。


 連撃は耐えられない。意識が飛ぶ。


 そう直感する。


「なんで金属バットで頭殴られてまだ動けるんだ。普通気失うはずだろ」


「……いや、てか死ぬだろ」


 我ながらタフだなと思う。


 僕じゃなかったらたぶん死んでたんじゃないかという気がして、館林の狂気にぞっとする。


 どうすればいい?


「逃げてねえ逃げてねえ逃げてねえ逃げてねえ逃げてねえ。俺は逃げてねえ!」


 狂ったようにそう呟く館林は、またも愚直に突っ込んでくる。


 こいつまだ、なんにもわかっちゃいねーな。


「いつまで現実逃避してんだよ! ちゃんと向き合え! お前らのしてることによ!」


 どうやったら館林の攻撃避けられるかとかどうやったら館林に攻撃当てられるかとか、そういうの考えるのやめだ。どうせ考えたってどうこうなる物でもない。なんにも難しいこと考えずに、ただ拳を振ろう。あいつは一発殴られなきゃわからないらしいしな。


「うおぉぉぉ!」


 館林が僕の眼前に立ち、バットを振り下ろそうとする。僕はカッと目を見開き全神経を集中する。


 バットを受け止める。


 それだけに賭ける。


 振り下ろされるバットを受け止めようと真剣白羽取りの要領で構えていたが、そこで館林の動きが止まった。


「……な、なんで、受け止められる未来しか見えねえ……!?」


 どうやら予見で見えた未来では僕はバットを受け止めているらしい。そんな結果が見えてたら攻撃の手も止まるよな。


「……早くこいよ」


 僕は館林の顔を睨んでそう言った。


「チッ! お望み通りにしてやるぜぇ……!」


 館林が自らの見えた未来を無視して振り下ろした金属バットを、僕は左手一本で受け止めた。尋常じゃない衝撃で、もしかした骨にひびが入ったか折れたかもしれないと思ったが、掴んだ金属バットを離しはしなかった。


「その歪んな根性、叩き直してやらぁ! 歯食いしばれ!」


 僕が右手に力を込めると、不思議な感覚が右手を包んだ。見ると、東雲少尉と戦った時と同じように銀色の光が拳から溢れ出して僕の右手を包んでいたのだ。蘇るあの時の感覚。右手に漲る謎の力。だが不思議と恐れは無かった。バットを掴まれてとっさに回避できない館林に狙いを定め、拳を振り抜く。相手がどんな予見で回避しようとしたって、回避させない。僕の動体視力がそれを許さない。なぜか敵の動きがいつもより鮮明に見え、どんな些細な動きすらも見逃さない。


「――『全力弾丸正拳マグナムストレート』!」


 研ぎ澄まされた感覚と共に全力で放たれる僕の拳は、銀色の光を纏いながら館林の腹部に吸い込まれ、そのまま彼を屋上の端まで吹っ飛ばした。


「かはっ……!」


 屋上のフェンスに叩きつけれた館林は、そのまま地面に倒れ、起き上ってはこなかった。


「……少し荒療治だったかな」


 今更のようにふらつく体を屋上の床に投げ出し、僕も地面に突っ伏した。


 今第三者が見たらどっちが勝ったのかわからないだろうけど、買ったのは僕だ。間違えないでほしい。


 僕はそのまま意識を手放した――。


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