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榛葉昴の銀幕  作者: ペポ
第Ⅱ章 冬峰学園編入編
32/36

030 無能力者(ノーマル)の意地


 僕と秋宮は風紀委員六人と対峙する。


 片桐が協力してくれないのは誤算だが仕方ない。これは僕らが売ってしまった喧嘩だ。引けない。既に風紀委員六人は準備ができているようで、いつ誰が動き出してもおかしくなかった。


 僕らは安易には動かない。


 安易に動けば、前回の二の舞になることは明白だった。無能力者ノーマル二人がどうやって超能力者サイキッカー六人に対抗するのか。あの戦いの後まったく想定しなかったわけじゃない。考えはまだ練り込めてないが、やるしかない。


 僕らの間に流れる緊迫した時間。


 痺れを切らしたのは風紀委員達だった。


「相手は先手を取る気が無いらしいわ! 貴方達がその気なら、こっちはそんな小賢しい考えごと叩き潰してやるまでよ!」


 渥美の指示で一人の男子生徒が前に出る。


 あいつの能力は確か……。


「僕が一度彼らの動きを封じます! そのうちに皆さんは総攻撃して下さい!」


 前に進み出た小柄な男子生徒は両掌を掲げる。


 すると彼の掌から閃光が溢れ出し、辺り一面を白色一色に染め上げる。前回と同じ、僕らの視界を奪うための一手。『発光能力』。


「はははははっ! これで君達は動けまい。皆、今だ。一気に奴らを――」


 小柄な男子生徒の声が途切れる。


「…………っ!?」


 彼の前に立つ一人の影。


 僕だ。


 『遮光性能のあるあの武骨な黒いゴーグル』で目を覆い、距離を詰めた僕は彼の眼前に立っていた。彼の閃光の影響を避けるため、他の風紀委員の連中は彼から目を逸らしている。ヘルプは無い。


「しまっ――」


「――まず一人」


 僕の全力の拳が彼の顎を捉え、そのまま脳震盪を起こした男子生徒は地面に突っ伏した。


 閃光が止んだことで事態を察した風紀委員の連中が愕然とする。


「いつの間に……!?」


「あの光の中で動けるとは……!?」


 僕の顔を覆うゴーグルを見た彼らは怒りの表情を浮かべ、殺気立つ。


 だが遅い。


 閃光が止む寸前に秋宮が放ったロケット花火が、閃光が止む頃には彼らの眼前に迫る。回避の隙を与えない。


「あつっ……!」


「きゃっ……!」


 狙いの定まら無い中闇雲に放たれた秋宮のロケット花火は、一人の男子生徒と渥美じゃない方の女子生徒を捉えた。確か彼はあの謎の音の無い空間を作り出した奴で、もう一人の女子生徒は突風起こしてた奴だろ。『無音空間能力』に『風力操作能力』。この二つは封じたか。


「……続いて二人」


「貴様ら!」


 彼らの中で一人ガタイのいい男子生徒が手に持った砲丸を勢いよく投げる。それはまるで意思を持ったかのように空中でうねり、僕の方へと飛んでくる。まるで生きているかのようだ。


「ふんっ!」


 僕の身体にめり込まんとする錆色の鉄球。勢いよく僕へと迫るその砲丸を、僕は見切って両手で受け止めた。


「ふぐうぅぅぅっ!」


 僕が掴んでもなおその動きを止めない砲丸は、力の限り僕へとめり込まんとあがく。必死でそれを抑える僕。


「いい加減諦め……ぎゃあっ!」


 砲丸を操作していたガタイのいい男子生徒のこめかみにロケット花火が命中する。当然秋宮だ。


「飛んでけ!」


 連続して放たれる秋宮のロケット花火。これらは渥美・館林に向けられたものだったが、思考が読める渥美も予見が使える館林もこれを難なく打ち落とす。


「そんなもの効かないって何度も言ってるのに、バカなの!?」


「馬鹿はそっちだ」


 秋宮の視線につられて渥美が僕の方を見る。


 その時僕はロケット花火が命中したガタイのいい男子生徒の腕を掴んだところだった。


「! 止めなさい!」


 僕の思考を読んだのか事態を察した渥美が鉛筆を投げ放つ。それらは僕の足に突き刺さるが、それだけじゃ僕は止まらない。こめかみに花火を受けた男子生徒が唸る中、彼の腕をひねり上げ、そして背負うようにして、全力で投げる。


「――『一本背負い投げ』!」


 傍から見たらありえない体格差だが、意外と力持ちな僕は歯食いしばってこの男子生徒を投げ飛ばす。彼の飛ぶ先には先程花火を受けた二人の風紀委員。花火を受けただけで戦線に復帰する可能性のある二人を、このガタイのいい男子生徒でノックアウトする。それを狙っての放り投げだ。


 花火による火傷に気をとられていた二人の生徒は、飛来する味方に気付かず、うへっと潰されたヒキガエルみたいな声を出しながら男子生徒の下敷きになった。三人まとめて戦闘不能である。




「これで計四人。あとはお前らだけだ。渥美恭子、館林欧堰」


 無言になる渥美と館林。


 僕はゆっくりと秋宮の隣へと移動した。


「……榛葉。やったな」


「いい連携だったよな。僕ら天才かもしれない」


 ニヤッと不敵に笑う僕。


「さて、じゃあ悪いけどタッグを組むのはここまでだ。あたいはあの渥美恭子に用があるんだ。あたいが決着つけないと気が済まない。だから、もう一人を頼めるかい?」


 秋宮は僕の目を見る。


 僕はやれやれと首を振る。


「あいつ風紀委員の3番手なんだろ。手に負えないかもしれない」


「どの口が言うんだ。あんたなら大丈夫さ」


 さいですか。


「じゃあ、決着つけるか。言いたいこともあるしな」


 僕ら四人は屋上で向かい合う。既にゴーグルは額の定位置に戻した銀色頭の僕。手に花火とジッポーライターを構え眼前を睨む秋宮。手に持った文房具類を弄びながら余裕の表情を浮かべる渥美。金属バットをブンブンを振り回し威嚇する館林。


 いざ、決戦だ。


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