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榛葉昴の銀幕  作者: ペポ
第Ⅱ章 冬峰学園編入編
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027 『宵の支配者』


 僕がこの学園に転校してきてから数日が経った。


 転校初日のあの時以降、風紀委員の奴らが僕に絡んでくることは無く、実に平和は日々を過ごしていた。


 僕は転校初日から関わりのあった片桐や秋宮と一緒にいることが多かった。これは秋宮に頼まれたからというだけではなく、単純に一緒にいて楽しかったからという意が大きい。あの日以来復調した片桐の相変わらずの厨二病発言も、それらをバッサリ切り捨てる秋宮の的確なツッコミも、すでに僕の日常と化していた。


 今日も今日とて、そんないつもの雑談の最中だった。




「榛葉君おはようございますっ」


「榛葉おはよう」


 僕が席で一人読書をしていると、登校した片桐と秋宮がまだなんとなく眠そうな顔で挨拶をしてきた。


「二人ともおはよう。……なんでそんな眠そうなんだ?」


 僕が気になったことを尋ねると、秋宮がむっとした表情を浮かべた。


「あたいは別にしたくて夜更かしをしたわけじゃないぞ。姫奈に付き合わされたんだ」


 そう言って肩をすくめる。


「じゃあ片桐は夜更かしして何してたんだ?」


 フラフラとした足取りで席に着こうとしていた片桐が、ガバッと顔を上げて僕の方を信じられないといった表情で見てきた。


 ちなみに三日前に席替えがあり、僕の席は片桐の隣になった。秋宮の席も近い。


「榛葉君、もしかして『あれ』やってないの!?」


「『あれ』ってなんだよ」


 僕には思い当たる節が無い。


 いや一つあったか。


「もしかして今日の数学って何か宿題出てたっけ?」


 やばい、すっかり忘れていた。


「違うよ! そんなもの出てないよ!」


「いや出ていたぞ姫奈!? 二人ともやってないのか!?」


 秋宮は呆れたようにそう言うが、それだけでは片桐の謎の熱が冷めない。


「宿題なんてどうでもいいの! そんなものよりもっと大切なものがこの世にはあるんだもん! だって昨日はあの、『NIFLHEIM ONLINE』のオープンβテストがあったじゃない!」


 知らねーよ!


「今年期待の新作MMORPGで、空と海が自由に散策できるのが特徴なの! 当然グラフィックは超美麗! キャラのステ振りの自由度も高くて、玄人でもやり込み要素が豊富なんだって!」


 片桐は鼻息荒くそんなことを語るが、秋宮はやれやれと首を振る。


「姫奈はそういうネットゲームにドはまりしてるのさ。あたいにはよくわからんがね。あたいもそのなんとかオンラインとやらに昨日付き合わされてね。なんでも特典がどうとかって」


「事前登録者限定特典にオープンβテスター限定特典! どっちも逃すわけないじゃない! 後で雅のアカウントで貰った特典は私が貰うの!」


 今まで見たことないくらいとびきりの笑顔を見せる片桐。


「勝手にしてくれ。そんなパソコンの中だけのデータに、あたいは興味ないよ」


 秋宮は席に座りながら僕へと説明する。


「姫奈は昔っからネットゲームが大好きなのさ。あたいにはよくわかんないけど、ネット界隈じゃ廃人として名が知れてるらしいよ」


 そうなのか。


 花の女子高生が何やってんだか。


「榛葉君はネットゲームとかやったりしないの?」


「僕もやったことはあるよ。でも、あんまり長続きしなくて。ほら、アップデートがあったりするとなんか敵が強くなって勝てなくなるし、周りに自分より強い人がい過ぎてやる気失くすというか」


 僕の話を聞いた片桐はなぜかきょとんとした表情をしている。


「そう? 私あんまり負けた事とかないから」


「いやレベリングすればA.I.の敵は倒せるかもしれないけど、対人戦はそうはいかないじゃん。もうそういうとこって猛者ばっかじゃん」


「そうかな? そんなこと思ったことないけど」


 まじっすか。


 この娘、どんだけやりこんでんだ。


 さては猛者側の人間か。


「無駄だよ榛葉。姫奈はネット上じゃ通り名が付けられるくらい有名なんだとさ。なんていったっけ? 『宵の支配者』『闇の旅人』『地獄鳥』とかだったか?」


「おいおい厨二病全開の通り名だな。……でも確かに僕でも聞いたことある名前だ。ネットの中じゃ伝説の人物じゃないか。それがこの天然女子高生だっていうのか?」


「そうだよっ!」


 嬉しそうに胸を張る片桐。


「ちなみにその通り名は私が考えたんだよっ!」


「まじかよ!」


 通り名を自分で考えて拡散してるって痛すぎだろ。それでもそれが拡散浸透してるってのが凄いけどな。


「キャラ名ってなんだっけ? 『宵の支配者』って通り名は出てくるんだけど……」


「『夕焼梟ダスクオウル』だよ!」


 そうだ。そんな感じの厨二病な名前だった。


 確か黒と橙のカラーリングのキャラデザで有名だったはずだ。


「ねえねえ、榛葉君も一緒に『NIFLHEIM ONLINE』やろうよ! 私はいつも通り『夕焼梟ダスクオウル』って名前でやってるから」


「いや、今んとこまだ学園の授業に慣れるのに必死で、ゲームとかやってる余裕ないや。悪いけど一人でやってくれ」


「私は敵をバッタバッタと近接でボコボコにするのが好きだから今回のクラス『バーサーカー』にしたんだけど、榛葉君は『パラディン』になってヘイト管理とタンク役お願いね! やっぱりゲームは近接戦闘が基本だよねっ」


「人の話聞けよ!」


 僕の話を無視して実に楽しそうに妄想を繰り広げる片桐。


 ちなみに僕はそういうゲームでは基本的に遠距離型のガンナーや魔術師なんかを選ぶことが多い。遠くから攻撃できるから危なくなくていいのだ。タンク役なんてごめんだ。


「で、雅は『シスター』になって回復役ね!」


「あたいもやるのかい!?」


 なんてくだらない話をしているところにガラッと音がして滝沢先生が入ってきた。今日も変わらずクールビューティーな立ち振る舞いだ。


 ホームルームの時間になったようだ。


「全員席に着けよ。今日は大事なお知らせがあるぞ」


 全員の注意が滝沢先生へと向く。




「――また転校生が来たぞ」


 滝沢先生の言葉にクラスが湧き立った。


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