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榛葉昴の銀幕  作者: ペポ
第Ⅱ章 冬峰学園編入編
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020 手紙の正体


 いやー、迷った。


 なんとか屋上へと到着することができそうが、途中道に迷ったせいで教室を出てから30分も経ってしまった。


 まあ今日転校してきたばかりなのだから、校内図が頭に入っていないのは当然だろう。僕を待っているだろう美少女(勝手に脳内変換されている)には申し訳ない限りだ。


 てかこの学園が広すぎるのだ。そのわりに構造が複雑で入り組んでいる。外敵に備えた昔の城下町か、とツッコみたくなるほどだ。用務員さんとかの仕事が大変そうで同情する。


 とかそんなことを考えつつ屋上へと続く階段を駆け上がる。


 あの扉の先には僕へと思いを告げようとしている超絶美少女(さらに脳内変換されている)が待っているはずなのだ。僕はその娘に会わないといけない! それが紳士の務めというものなのだから!


 ガチャリという音と共に重い鉄の扉を開けると――




 ――そこには制服に身を包んだ生徒が『複数人』いた。女子生徒だけじゃない、男子生徒の姿も見られる。その内訳は、女子2男子4といったところだ。


 これは、どういう状況なんだ?


「遅いわ!!」


 状況に戸惑っている僕を一喝する声。それは彼らの中心に立っていた一人の女子生徒が発したものだった。


 彼女はこの学園の象徴であるベージュの制服に身を包み、厳格なイメージを与える四角縁の黒眼鏡が印象的だった。左腕の杜若色の腕章も特徴的かと思ったが、それは彼女だけではなく彼女の周りにいる他の五人の左腕にも同じものが見受けられた。おそらく彼女らは何らかの同じ組織に属しているのだろう。


 もしくはあの腕章が今、学生の間で大ブームしているという可能性もなくはない。


 たぶん違うが。


「遅い遅い遅い! 始業式が終わったのが午前10時30分! そこから一直線にここに来れば午前10時38分には屋上に来られるはず! な の に! 今何時!? 今午前11時27分! 49分も遅い! なんでどうして! 私には理解できないわ!!」


 目の前で延々と話し続ける四角縁眼鏡の女子生徒。完全にヒステリーを起こしている。僕からすればまったく状況が分からない。


 つまり彼女、ないしは彼女らが僕に手紙(この状況からラブレターではなかったのだと悟った)を出し、ここで僕が来るのを待っていたということだろうか。おそらく合っているだろうが、理由が分からない。全員初めて会う顔だ。


「なんか言い訳は無いの!? 榛葉昴!」


 と、四角眼鏡の女子生徒は僕にヒステリックに尋ねてくる。


 そんなこと言われたって。


 いきなりなんなのこの人。


「いやだって、転校してきたの今日で、道が分からなくて」


「言い訳しないで!!」


「…………」


 まじか。


 この人発言が支離滅裂過ぎる。


 てか周りの奴らこいつ止めろよ。全員すまし顔で僕と彼女の会話を眺めている。もしかしたら彼女はこの状態がデフォルトなのかもしれない。だからいつも通り流しているとか……。


 これが常時ってかなりやばいぞ。


「頼む、誰か他の奴話してくれないか? この女じゃ会話にならない」


「なんですって!?」


 目を見開いて抗議しようとする四角眼鏡の女子生徒をもう一人の女子生徒がなだめる。代わりに一人の男子生徒が前へと進み出た。落ち着いた雰囲気の男子生徒で、普通に話が出来そうだった。少なくとも四角眼鏡はかけていないし、ヒステリーを起こしてもいない。


「転校生のあなたは知らないかもしれませんが、我々は『風紀委員』なんですよ。この腕章がその証です」


 彼は杜若色の腕章をどうだ、とばかりに見せつけてくる。


 だからなんだ、と言い返したくなる。


「風紀委員?」


 風紀委員といえば、あの学校大好きのトンファー使いとかだろう? 漫画や何かでは校則を破った人をボコボコにするイメージが強いが、この目の前の人達もその類なのだろうか。


「そうです。我々はこの学園の風紀と規律と秩序を守る組織なんです」


 男子生徒は誇らしげにそう答えた。


 彼らの立場は理解したけど、この状況にはまったく理解が及んでいない。なぜあんなラブレターもどきで僕をおびき寄せてまで屋上へと連れ込んだのか。もはやこれが告白とかそんなトキメキイベントじゃないことは察しがついている。


「ラブレターなんかで僕を罠にハメやがって! 純粋な少年の気持ちを弄んだな!」


 僕の抗議に一同はきょとんとした表情をした。


「ラブレター? 我々はそんなものに覚えはありませんが……」


「しらばっくれるな!」


 僕は先程片桐達を論争をするに至った一通の手紙を掲げた。


「これに覚えがないっていうのか!」


 彼は僕が掲げた手紙をしげしげと眺める。


「確かにそれは我々が渡したものですが、別にラブレターを偽装したつもりはないですよ。そのような内容書いてなかったはずですが?」


 僕はハッとして簡素な便箋を読み返す。


 確かに、そう言われてみれば恋愛絡みではないただの呼び出しとも取れなくはない。


「いや紛らわしくね!?」


「そこまでは我々の責任ではないですよ」


 男子生徒は肩をすくめる。


「ラブレターが欲しいっていう貴方の渇望が見せた幻だったんですよ。諦めて下さい」


 ヒステリーを抜け出した四角眼鏡の女子生徒が会話に復帰する。先程まで僕と会話していた男子生徒は一歩下がる。やはりこの女子生徒が彼らのリーダー格と見て間違いないだろう。


「手紙の事はいい、わかった。で、問題は、どうして僕をここに呼びつけたかだ」


 大したことない用だったら怒るぞ。


「いえ少し、確認しておきたいことがあっただけですよ」


 四角眼鏡は光を反射し、彼女の瞳の様子を見ることが出来ない。だが次の瞬間、彼女の口から意外な単語が飛び出した。


「貴方が『超能力者サイキッカー』かどうか。それだけ確認できれば大丈夫です」


 彼女はそう僕へと告げた。


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