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榛葉昴の銀幕  作者: ペポ
第Ⅱ章 冬峰学園編入編
19/36

017 運命の出会い

更新が大変遅くなってしまって申し訳ありません。

FF10やってたからなんですけど(笑)

これからはそうならないようにします。

本当にすみませんでした。


 桜舞う、出会いの季節。


 僕こと榛葉昴は冬峰学園の始業式へと出席するため、冬峰学園へと向かっていた――。




 はっはっはっは!


 今日から始まる僕の新生活!


 この学園で、僕は2年生からの編入となる。


 つい数日前までは僕も翔も高校一年生だった。勘違いされやすいのだが、僕らは双子ではない。僕が4月生まれで翔が3月生まれだったのだ。正直こんな直近で子供を授かるというのはどうなんだと思わないでもないが、後の祭りである。


 重松学園長の計らいにより迎えられることとなった学園生活だが、僕はどうやら日本国軍から狙われている立場らしいので、この学園に通うに当たっても鈴置班長達といくつか約束させられた事柄がある。



 一つ、自分の家の事については極力吹聴しない。


 一つ、メロディーラインとの関係を人に悟られない。


 一つ、外出はなるべく避ける。



 一つ目に関しては説明がいらないかもしれないが、僕があの榛葉家と関わりがあると知られれば、僕の正体が知られてしまうという理由からだ。二つ目も同様に、僕があのメロディーラインと関わりがあると知られれば、僕の正体がバレてしまう可能性があると理由から。三つ目はどういうことかというと、実はこの学園は全寮制で生徒は皆学園の敷地内に設けられた学生寮に住まう決まりであり、もちろん学園外へと外出は自由なのだが僕はそれが制限されてしまっているというわけだ。


 まあさして不自由するような約束事ではない。


 確かに外出できないのは少し寂しいかもしれないが、あの窓のない譲原基地に比べれば天と地ほども差のある生活を送ることが出来る。重松学園長には本当に感謝しなければ。


 僕がここの寮にやってきたのは昨日で、まだ今日という日は僕がこの学園で過ごす二日目である。部屋の荷解きはあらかた終わったが(元々荷物は榛葉家から持ち出せていなかったのでほぼ手ぶら)、まだ学園内のマップを把握できていない。今だって同じく寮から学園の学び舎たる本舎へと向かう生徒の群れについて行っているだけなのだ。


 まあそんなことはいい。


 道なんて後から覚えればいい。


 それよりも、だ。


 さっきから気になっていることがある。


「……ヒソヒソ……」


「……うわ……」


「…………」


「……やべ……」


 なんだ、この僕を取り巻く視線の数々は!


 僕がイケメンだからか!


 ……いや、それはないか。


「……見て、あの頭……」


「……ひぃ、完全に不良じゃん……」


 僕の横を足早に追い越していく女子生徒達のおしゃべりを漏れ聞いたことにより、事態を把握した。


 この髪か。


 まったく。


 僕はため息をつきたい気分になる。


 前の学校でもそうだった。銀色の髪をしているというだけで皆から奇異な視線を向けられた。


 何? そりゃそうだろって? うるさいよ!


 今はさらにツンツン銀色ヘアーに加えて、ちょっと武骨な黒いゴーグルなんかも装備しちゃっているために、さらに悪目立ちをしているようだった。


 このゴーブルはあの青い刺青男への手がかりになる物だからな、出来るだけ身近に置いておきたかったのだ。


 決してカッコイイからとかではない。


 カッコイイゴーグルつけて学校でモテモテになろうなどとは、全く思っていない。


 断じて違うのだ。


 と、僕はそんなことを考えながらこれから始まる新たな学園生活へと期待に胸を膨らませていたのだった――。




 ――が、僕が本舎の玄関に辿り着いた時にトラブルが起こった。


 僕は出来る限り目立たないように(実際はその髪からけっこう目立っていたが)玄関までやってきて、さあ張り出されたクラス表から自分が何組か確認しないとなどと思っていたところ、思いがけず誰かから声をかけられた。というか悲鳴をあげられた。


「――あぁぁぁっ!」


 その大きな声に僕が振り返ると、一人の女子生徒が僕を指差し、やっと見つけたとばかりの表情を浮かべていた。


 彼女の声がかなり大きかったので、クラス表を見ようと玄関に集まっていた人々が一斉に僕と彼女へと視線を集めた。


「あの時の……!」


 その女子生徒はそこを動かないでというような視線で僕をその場に縫いとめると、僕の方へと駆け出して迫ってきた。


 え、え、誰?


 向こうは僕の事を知っている風だが、僕は彼女の事を知らない。僕が忘れてしまっているだけなのだろうか? それにしては既視感が全くないのだが。


 いったい彼女は誰なのか?


 そんなことを考えていると、彼女はいつの間にか僕の目の前まで迫っていた。僕としてはトラブルを起こして目立ってしまうことは避けたいので、とっさに彼女を避けようとした。体を横にずらして、闘牛よろしく迫ってくる彼女を華麗に回避した。


「あっ!」


 彼女は自らのその勢いを殺せず、僕の横を通り過ぎると同時に地面に落ちていた小石でつまずき、顔面から地面にダイビングしてしまった。


「…………」


 彼女は地面に倒れたままピクピクとしている。


 大丈夫だろうか。


「がばっ!」


 がばっという擬音を口にしながらまさにそのように起き上がる彼女。その鼻頭は赤く擦り抜き血が滲み出ていたが、その他に大きな外傷はないようだった。よかった。


「避けましたねっ!」


 彼女は血の滲む鼻頭をものともせず僕のほうへと詰め寄った。


 いや、グロいから止めて。


「いきなり人が突っ込んで来れば誰でも避けるよ」


 僕はそう反論する。


「何言ってるんですかっ! 美少女を抱き留めるのは物語の始まりフラグじゃないですか!」


 何言ってるんだこいつは。


 印象としては確かに彼女は美少女だった。それは彼女の黒髪の中で一際映えるオレンジ色の長いリボンのせいかもしれないし、人懐っこそうな表情のせいかもしれないし、柑橘類を思わせる香りを漂わせているからかもしれない。その白い肌から察するに、インドア派かもしれないな。


 が、ふと僕が彼女の左手に巻かれた包帯が気にかかった。


 怪我でもしているのだろうか?


「あ、もしかしてこの左手の事気になっちゃいます?」


 彼女は僕の方へと包帯が巻かれた左手を差し出してきた。


「まずは自己紹介から。私の名前は片桐姫奈カタギリヒナ、電脳世界を闊歩する最強無敵の絶対支配者チーター。そしてこの左手には、この世の最奥に秘められた世界構築の鍵と魔の脅威が封印されているんです。だからもし何かを感じ取ったとしてもそっとしておいてほしいの。『奴ら』を刺激してしまうからね」


 ドヤ顔でそう言い放つ彼女、片桐を冷めた目で見つめる僕。


 なるほど。


 この娘、厨二病か。




 僕の目の前に立つ片桐は、なにやら自信ありげな笑みを浮かべていた。


 まったく謎だ。


 この娘は何がしたいんだ。


「って、はっ! 忘れてたっ! 私は貴方に用があったんだった!」


 オーバーなリアクションで額をぺしんと叩く片桐。


 なんて昭和なアクションなんだ……。


「私この前あなたのこと見たんですっ! だから声かけないとと思って!」


 おい話の前後に繋がりがないぞ。


 たまたま見かけたことがある他人に、声かけないとなどとは普通思わないだろ。


 だが僕は片桐の次の言葉に声を失う。



「――貴方この前軍人さんと戦ってましたよね?」



 片桐の言葉に裏は感じられない。


 純粋にそうだよねと確認しているだけだ。


 それは「昨日晩ごはんカレーだったよね?」と聞くくらい気軽な質問のつもりなのだろう。


 だが僕には『それ』がとても重大な質問なのだ。


 軍人さんと戦っていたというのは、十中八九この前の東雲少尉と戦っている時の事だろう。どの程度見られていたのだろうか?


 気になる。


 それによってどこまでしらばっくれられるのかが変わってくる。


「……なんのことかよくわからないな。人違いじゃない?」


 鈴置班長達との約束の一つ、『メロディーラインとの関係を人に悟られない』に触れる可能性がある質問内容だ。僕はそれをなんとなくスルーする形で話を進めることにした。


 約束のことが無くても、これから入学する学校の生徒に軍人やテロリストとの関係を知られるわけにはいかない。


「えーっ! 勘違いじゃないよ! だってあなたみたいにキラキラっていう銀色の髪の毛だったし!」


 またこの髪の毛か!


 本気で黒とかに染めようかと考える僕。


「銀髪なんてけっこういるんじゃない? ほら、某漫画に出てくる万事屋さんとかさ」


 自分で何言ってるんだろーなとは思った。


 いねーよ。


 銀髪なんてこの田舎に僕以外にいるわけねーよ。


「確かにマンガやなんかにはいっぱい登場するよね、銀髪! 納得したっ!」


 天真爛漫な片桐の笑顔。


 うわっ、この娘もしかして馬鹿なんじゃ……?


「でもやっぱりあれは貴方だったような気がするんだよね。背丈も貴方くらい小さかったし」


 うるせーよ!


 背のことはほっとけ!


「あとやっぱ雰囲気もかな。こう、グワッ! シュッ! って感じで」


 ごめん、ぜんぜん伝わんないや。


「それになにより、夜中に何かと戦っていた人が自分の学校に転校してくる、これってとってもフラグじゃない?」


 片桐はニヤニヤとした顔つきで僕のほうを見てくる。


 僕は悟った。


 この娘、変わってる。




 これが僕と片桐姫奈という人物の、初めての出会いであった。


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