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榛葉昴の銀幕  作者: ペポ
第Ⅰ章 榛葉家騒乱編
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015 鈴置班長の粋な計らい


 僕がメロディーラインの、ここ譲原基地に連れて来られてから既に二日が経っていた。


 あれから僕は別に酷い扱いを受けるでもなく拘束されるでもなく、与えられた個室でその一日の大半を比較的自由に過ごしていた。ここに来て僕は何もすることが無かったため、ただただ部屋に訪れる人達と会話し情報を得る事に労力を費やしていた。


 ここで僕の元へと訪れてくれた主要な人達を紹介しよう。



 鈴置福太郎。


 12班の班長で、僕に対して比較的友好的な人物である。リーダーっぽさは無いが、その優しさと時々見せる鋭い洞察で基地の皆から好かれているようだ。



 高坂金吾コウサカキンゴ


 11班の班長で、ブロンドの髪をしたあのおどおどしていた奴である。僕に対して警戒心を強く持っている様子で、いつあの念動力サイコキネシスで絞め殺されるかと、僕は会う度にビクビクしている。会議の時に僕に対してあれほどの態度をとっておきながらなぜ僕に会いに来るのかと疑問に思っていたが、どうやら上からの命令で仕方なく定期的に僕の監視をしているらしい。



 飛鳥久梅。


 13班の班長で、黒装束に身を包んだくノ一風の女性だ。忍者ということで寡黙な人かと思ったが、わりと気さくめな人で驚いた。むしろ会話の節々に垣間見られる狂気じみた部分にうすら寒くなるほどだ。ただ我が榛葉家が焼失したのは彼女のせいだということで、僕としては許せないなと思う部分もないでもない。



 小清水伊作。


 13班の副班長で、僕を榛葉家から連れ出してくれたあの小柄な忍者である。飛鳥と同じ13班ということで、もしかしたら13班という組織は全員忍者なのだろうかと疑いを持ったのだが、実際そんなことは無いらしい。



 その他僕を診察してくれた医療班の人や、興味本位で部屋に訪れた広報班の人がいたが、彼らの事はちょっとここでは割愛しよう。


 テロリストの広報班とは何なのだと思ったが、彼らの掲げる『反科学体制』という思想を布教し、仲間を増やしているらしい。具体的には、世界的な有力者に接触しパイプを作ったりなど。


 僕が彼らと話して得た情報もここでまとめておこう。


 でないと今の状況を理解できないのだ。



 ・彼らメロディーラインは、現代世界を支配している科学主義による世界的治安の悪化に対抗するための組織で、推定では世界に1000万人もの同志がいると言う。その中でも日本支部は特に重要な拠点であると言う。



 ・科学主義の中でも最も世界の治安を悪化させている要因というのが、『クローン』の作成である。これの登場により人類の倫理観が崩壊し、世界的治安の悪化の原因となったらしい。



 ・メロディーラインの日本支部と呼ばれる中にも4ヵ所の主要な基地があり、ここ譲原基地もその中の一つである。ここ譲原基地には日本支部の戦闘班、11・12・13班が駐屯しているらしい。



 ・譲原基地はそのほとんどが地下に埋まっている。そのため基地内には窓がほとんどないのだとか。



 ・テロリストと呼ばれるのは不服らしい。



 ・数十年前から世界各地でその存在が確認され始めた超能力者サイキッカーだが、この譲原基地にも高坂班長や飛鳥班長など数人の超能力者サイキッカーが所属している。高坂班長は念動力サイコキネシス、飛鳥班長は発火能力パイロキネシスがそれぞれ使えるらしい。



 ・超能力者サイキッカーは世界的には差別・排他される風潮にあり、彼らの存在も現代の治安の悪化に影響している。



 と時代背景はこんなところだろうか。一般常識的な話もあるが、僕の知らない裏話的なこともあった。


 で、この話を踏まえて今の僕の状況を確認しよう。


 僕の家に国軍がやってきて、僕を殺そうとしてきた。そこにメロディーラインの連中がやってきて、僕を連れ出し拘束監禁した。


 …………。


 うーん。


 やっぱわからないなー。


 なぜ僕が狙われてるのか、ってピースが足りなくて真実が見えてこない。


 やっぱあれか、あの写真に写ってた青い刺青男を探すしかないのか。メロディーラインの連中は僕に何かを話してくれる気はないみたいだし、自分で真実を見つけるしかない。


 あの人だけが今僕の手元にある唯一の手がかりだ。




 そんなことを思い悩んでいたら、鈴置班長が部屋にやってきた。


「おい昴、気分はどうだ?」


「あんまり良くないですよ。こんなところに閉じ込められて」


「いや部屋は自由に出られるだろう?」


「だからって息は詰まりますよ。いつまでこんな生活が続くのかわからないんだし」


 僕はため息をついた。


 そろそろ動きたい頃だな。


 とりあえず資料室みたいなところがあれば、そこであの青い刺青男の事を調べよう。あと、基地にいるいろんな人に聞き込みをしてみよう。誰か彼の事を知っているかもしれない。


 そうだ、あの蔵から持ち出してきた黒い武骨なゴーグルだが、僕が使わせてもらうことにした。普通にかっこいいからというのもあるが、もしあれを身に付けていれば、誰かあのゴーグルをつけていた青い刺青男を知っている人が気付いて声をかけてくれるかもしれない。


「……話は変わるんだけどな、これから俺は外に散歩に行こうと思うんだ」


「……?」


 いきなりなんだ?


 外に出してもらえない僕へのあてつけか?


「……でな、お前の家があった辺りに足を延ばしてみようと思うんだが、如何せん俺には土地感が無くてな、誰か案内してくれる奴がいないかと探してるんだよ」


「……?」


 鈴置班長は僕にウィンク。


 あ、なるほど。


「誰か案内してくれる奴いないかな~?」


 ニヤッと笑う鈴置班長に、僕もつられてニヤッとした。


 そんなことをすれば鈴置班長が罰を受けるんじゃないかと思ったが、ここは素直に彼の厚意に甘えておくことにした。




 ということで僕は鈴置班長の粋な計らいで、散歩の道案内(という名の僕の気晴らし)に連れ出されていた。


 ありがたい!


 久々の外!


 ひゃっほー!


 ということで僕らは榛葉家へと向かった。




 僕は榛葉家の姿を見て、呆然としてしまった。


 全焼。


 テンションガタ落ち。


「…………」


 話には聞いてたんだけどね、実際に目の当たりにするとほらね、なんかね、こうグッとくるものがあるよね。


「中入ってもいいぞ」


 鈴置班長がそう言ってくれたので、僕は敷地の中に足を踏み入れた。


 ちなみに現在僕と鈴置班長の二人だけだ。


 今国軍に襲われたらひとたまりもないのではないだろうか。


 心配だ。


 いくら班長とは言っても、この鈴置って人あんまり戦闘向きって感じしないんだよなー。


 僕がしっかりしないと。




 榛葉家内は殺風景なものだった。


 建物自体はほとんど炭化していて、残っているのは主に柱だけだった。話ではこの前の事件で少なくない数の死傷者が出たそうだが、さすがにもう綺麗なものだった。


 僕としてもなんとなく感じることはある。


 彼らは僕のせいで死んだようなものなのだ。


 僕が国軍に狙われたから。


 …………。


 考えるのは止めよう。


 前だけ向くのだ。


「……翔達はどこに?」


 僕は静かに鈴置班長に尋ねた。


「次期当主、いやもう現当主の榛葉豊介は、榛葉家の分家に身を寄せているらしい。当然そこに榛葉翔もいるだろう」


「そうですか」


 分家、どこだろうか。


 僕が知っている分家の中で現在一番有力なのは森元家だ。そこかもしれない。


「榛葉家の他の人は? 門下生達や侍女の人達はどうしたんですか?」


「確か全員同じ分家にいるはずだぞ」


 僕はホッとした。


 寧々ちゃんも武藤も一緒にいるみたいで安心した。


 僕と鈴置班長はたっぷり敷地内を散歩した後、譲原基地に戻った。


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