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榛葉昴の銀幕  作者: ペポ
第Ⅰ章 榛葉家騒乱編
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013 目を覚ますと


 僕が目を覚ますと、そこは病室だった。


 僕はベッドに横になっていたのだ。


 なぜだろう?


 僕は記憶の糸を辿ろうとする。


 家が国軍に襲われて、その狙いはなぜか僕で、武藤や翔を置き去りにして、敵の将校と戦って――。


「……いってー」


 東雲との戦いを思い出し、今更のように体中に痛みが走った。


 あの時の記憶が曖昧だ。


 なんかよくわからんけど執拗に掌底打ちばかり使ってくるあいつの技を受けて死にそうになって、それで。


 それで、僕はどうしたのだ。


 確かそれでも奴と戦ったのだ。


 ボロボロの身体で、夢中になって、奴と戦ったのだ。


 そして最後には、謎の銀色の光が溢れ出してきて、それで勝てたのだ。


 なんだか夢の中の出来事のようだ。


 あの光は何だったのだろうか。


 いろいろとよくわからない。


 そんな事実に僕は恐怖した。


 僕はあんな無意識下で奴と戦い勝利をもぎ取ったのか。


 なんなのだそれは。


 僕じゃないみたいだ。


 そんな怖い奴は知らない。


 僕はもっと平和主義者のはずなのに。非暴力非服従だ。


 と僕が記憶の欠片同士を繋げてパズルゲームに興じていると、コンコンッというノック音が聞こえた。


 誰だろうか。


 ここがどこだかわからない以上深く考えても仕方がない。もし国軍の追手だったとしてもどうせ逃げられやしない。とりあえず誰でもいいからこの状況に説明が欲しいところだ。


 僕が入っていいですよという前に扉がガラッと開き、一人の男性が入ってきた。


 おいまだどうぞって言ってないだろうが。


 礼儀のなってない奴だ。


「おう、目覚ましたのか」


 声をかけてきた男は部屋に入り、僕の横たわるベッドの脇に置いてあった椅子に腰を掛けた。


「体の調子はどうだ?」


「……体中ボロボロです。もう死ぬかもしれません」


「冗談が言えるってことは大丈夫だな」


 男は黄色と水色を基調にした制服のようなものに身を包んでいた。歳はおそらく30歳前後くらいだろうか。短い髪とその整った顔立ち、彼の放つ雰囲気から利発的な印象を受けた。


 僕の警戒的な態度を察したのだろう。彼は表情を崩して話しかけてきた。


「そんなに警戒しなくてもいい。俺はメロディーライン日本支部12班の鈴置福太郎スズオキフクタロウだ。これでも一応班長やってる」


 目の前の男ははそう自己紹介した。


 この男もメロディーライン。


 つまりテロリストの仲間か。


「……メロディーラインってことは、僕を連れ出しに来たあの小さい忍者の仲間なんですか?」


「人の事小さいって言うけど、お前も十分小さいだろ」


「うるせー!」


 鈴置班長はからかう様に言った。


 それ気にしてるんだから言うなよ!


「連れ出すって言い方はあれだけど、まあそうだ。あいつ名前名乗ってないのか? 小清水伊作。13班の副班長だ」


 そうだそうだ。確かそんな名前だった。


「その件は悪かったな。小清水副班長ならお前を安全に連れだせると思ってたんだが。彼は隠密行動が得意だからね」


 そうなのか。


 いや普通に道を突っ走ってた記憶があるんだが。


 本当に隠密行動が得意なのか? 疑問だ。


「で、鈴置班長達は僕を捕まえてどうするつもりなんですか? 殺すんですか?」


「まさか。それはお前の家を襲撃してた国軍のほうだ」


 鈴置班長は忌々しそうに言った。


 僕は鈴置班長の言葉で思い出した。


「僕の弟は!? 翔は!? それに武藤や父さんや母さん、じいさんや――」


「――落ち着け」


 鈴置班長が僕の言葉を制した。


「順に説明してやる。まずお前の家はほぼ全焼だ。これについては俺らの過失だ。申し訳ない」


 おいこらテロリスト。


 何してくれてんだ。


 誰がやったのかと尋ねると、13班の飛鳥班長という人らしい。


 小清水副班長といい飛鳥班長といい、13班は問題児ばかりだな。


「だが勘違いするなよ。俺らは榛葉家の当主の頼みで救援に向かったんだ。そこは感謝してもらわないとな」


 人の家燃やしておいて何開き直ってんだ。


「路上に倒れていたお前は、発見した俺がここまで運んだ。その際お前の近くに落ちていたぼろっちい風呂敷も一緒に回収しておいた」


 鈴置班長は部屋に唯一あるテーブルの上を指し示す。そこには僕が蔵から持ち出したゴーグルとアルバムを包み込んだ風呂敷があった。


 よかった。僕が持ってる唯一の手がかりを失くさなくて。


「ありがとうございます」


「いやいや」


 鈴置班長は話を続ける。


「戦闘結果の報告だが、攻め入った国軍は俺らによってほぼ全滅。榛葉家の跡取り、榛葉豊介や榛葉翔は無事だ。が、榛葉家現当主、榛葉稲一郎は今回の戦闘で亡くなった」


「えっ……」


 思わぬことに僕は声が出ない。


 ――じいさんが死んだ……?


「助けに行くのが遅くなって悪かった。俺達がもう少し早く救援に行けていれば……」


 鈴置班長の言っている言葉の半分も耳に入ってこない。


 じいさんが死んだ。


 榛葉流の免許皆伝者にして、二十二代目の当主であるじいさんが。


 理解できない――。


「――おい、聞いてるか?」


 気付くと鈴置班長が僕の顔を覗き込んでいた。びっくりした。


「つらいのはわかるが、お前に立ち止ってる暇はないぞ。榛葉家の当主様だって、お前がそんな状態になるのは本意ではないだろう」


 鈴置班長がそう諭す。


「……そうですね。取り乱してすみません」


 そうだ。鈴置班長の言う通り、今はあまり深く考え込んでいる暇はない。榛葉家の事は気になるがとりあえず翔は無事だというし、そっちは翔に任せておけばいいだろう。


 今は自分の事だ。




「質問が最初に戻るんですけど、どうして鈴置班長達メロディーラインは僕を榛葉家から連れ出そうとしたんですか? 僕だから特別、みたいな雰囲気を感じてるんですけど」


 僕は最も気になっていたことを尋ねた。


 国軍もだが、どうして僕を狙ったんだ?


 ま、まさか、僕をテロリストにスカウト!?


 ……ないか。


「そうだな。説明が難しいんだが……」


 鈴置班長は言葉を選んでいるようだ。


「……俺達の組織『メロディーライン』は反科学体制を謳っていてな、そんな俺達にとってお前は重要なピースとなり得るわけだ。だから俺達はお前を入手したかった。だから連れ出した。だが国軍は違う。お前を危険視して殺そうとしてる」


 ?


 ??


 いやぜんぜんわからないよ?


「だからどうして僕なのか、って聞いてるんですけど」


「……それは言えない。お前に関する情報については守秘義務が課せられている」


 なんだと。


 知りたきゃ自分で調べろってことか。


「そうだ守秘義務で思い出したけど、お前が起きたら話があるから連れてこいって言われてたんだ」


 鈴置班長が立ち上がる。


「誰に?」



「――藁科総長。メロディーライン日本支部の戦闘班のボスにして、日本支部最強の人さ」


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