表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
榛葉昴の銀幕  作者: ペポ
第Ⅰ章 榛葉家騒乱編
13/36

012 銀色の光


 東雲の前で地面に倒れ動けない僕。


 こうなったら、秘技『死んだフリ』。


 よし、どっか行ってくれよ……。


「ふん、思ったより大したことねぇな。さっさと止め差して時田さんに報告に行くか」


 『死んだフリ』が効かない!?


 血も涙もない奴め!


 僕はガバッと起き上って東雲から距離をとった。


「……てめぇ、まだ動けたのか」


 あ、ほんとだ。


 あんだけ喰らっても、まだかろうじて動ける。


「まあ、僕って昔から体だけは丈夫だったからね!」


 物理的に。


 ただし風邪とかには弱かった。


 一年間皆勤できたことがない。


 自慢することではないが。


「……そこはさすがという所か」


 訳の分からないことを呟く東雲。続きだ、と言わんばかりにまたも僕の方へと距離を詰め、掌底を繰り出す。


「あんたそればっかだな!」


 僕は東雲の繰り出す掌底を躱す。反撃には転じられないが、彼が次々と繰り出す掌底をすんでのところで躱していく。


「何!?」


「……もう喰らってやらねーよ」


 僕は東雲の掌底を躱しつつ反撃の隙を窺う。


 ……ないな。


 ぜんぜん隙がない。


「生意気言ってんじゃねぇよ!」


 東雲が渾身の掌底を放つ。油断していた僕はそれを回避することが出来なかった。


「太極拳『虎牙荒波』!」


 東雲少尉の掌底が腹部に叩き込まれる。物理的衝撃と『気』によるでたらめな衝撃が体を貫いた。


「ぐはっ……!」


 僕は後方へと吹き飛ぶ。


「動きはいいが、戦いをぜんぜん知らねぇみてぇだな。勝てるわきゃねぇよ」


 僕は気を失いそうだった。


 今までこれほどのダメージが体を襲った例はない。


 いっそ気を失ったほうが楽になれるだろうか。


 ……駄目だ。ここで負ければ僕はこいつに殺される。


 死にたくない。


 死にたくない。


 死にたくない。



 ――僕の中で何かが目覚める。



「くそぉぉぉぉ……!」


 僕は歯を食いしばり立ち上がる。


 もうどうにでもなれだ。


 めちゃくちゃにしてやるよ。


 僕は東雲を睨む。


「……何て奴だ。まるで獣」


 僕は体の動くままに地面を蹴った。


「速い……!」


 僕の放つ拳は東雲に躱される。だが彼が少し怯んだのを見逃さなかった。放った拳の勢いを殺さず、そのまま体ごと東雲に体当たりを喰らわせる。


「くそが……っ!」


 堪らず体勢を崩す東雲。直後僕は相手の眼前に踏み込み、拳を叩き込む。


 が、これは東雲が腕をクロスし防いだ。堪らず距離をとろうと後退する東雲だが、僕はそれを許さない。すぐさま距離を詰め直し、顔面目掛けて拳を振り下ろす。


「うがあぁぁぁ!」


「……ざけんな!」


 東雲少尉はその拳を流れるようにいなすと、逆に僕へと掌底で反撃。だが僕は止まらない。そんなもんもういっぱい喰らった。今更一回くらいなんだ! 僕は怯まず東雲に拳を叩き込んだ。


「いってぇ! てめぇ理性失くしてやがるな!」


 僕は東雲の言葉が理解できない。耳には入ってくるが脳には入ってこない。


 東雲は太極拳独特の足運びから、僕へと回し蹴りを放つ。


 僕はそれをしゃがむことによって避ける。


「何!?」


 逆に隙のできた東雲へと突っ込む。


 僕と東雲はもつれ合うようにして地面に転がった。僕が彼に対して馬乗りになる。


「わあうぅぅぅ……!」


「退け!」


 するりと僕の下から抜け出した東雲は、すぐさま背後から掌底を叩き込んでくる。


 が、僕はそれに怯まず拳で反撃する。


 ぶつかり合う拳と掌底。


 僕は『気』の力に押されて後方へと押し退かされる。


 強い。


 このままだと死ぬ。


 死にたくない。


 死にたくない。


 死にたくない。




「わうぅぅぅぅ!」


 僕は吠えた。


 右手に力を集中する。


 次の一撃で決める。


「それは……!?」


 東雲が驚愕の表情を浮かべる。


 彼が何に対して驚いているのかと自分の右手を見下ろすと、なんと僕の右手から銀色の光が溢れ出していたのだ。それは気体とも液体とも違う、だがただの目に映る光ではなく、『それ』としか表現できないものだった。


 だが僕には何となくわかった。


 この光は僕の力になるものだ。


 僕はその銀色の光を拳に纏い、東雲へと駆け出す。


「てめぇは確実にここで殺さなきゃならねぇ!」


 東雲も僕へと向か合ってくる。


 二人の距離は数メートル。


「太極拳『虎牙荒波』!」


 東雲の『気』を纏った掌底を、僕は左手で受け止めた。


 ものすごい衝撃が僕の左腕を伝わる。


 腕が折れたかもしれない。だが彼の手を離しはしない。これで奴は捕えた。僕の一撃を逃れられやしない。


 そして僕は、グッと踏込み右手を力強く握り振りかぶる。


 東雲は「これは!」と叫ぶが容赦はしない。


 僕の全力を叩き込む!


「一点集中――『全力弾丸正拳マグナムストレート』!」


 銀色の光を纏った僕の拳は、東雲の鳩尾に叩き込まれた。


「ぐぅ……っ!」


 確かな手ごたえ。


 だが東雲はその場に留まる。


「この……化物が……っ!」


 東雲はその場に崩れ気を失った。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」


 僕は荒い息をつく。


 体が熱い。


 意識が朦朧とする。


 記憶が曖昧だ。


 僕は、何をしていたんだ?


 勝ったのか?



 僕の意識はそこで途切れる――。



 この時、僕の姿を偶然見かけてしまった少女がいたことに、気付けたはずはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ