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榛葉昴の銀幕  作者: ペポ
第Ⅰ章 榛葉家騒乱編
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009 NINJA


 僕がバッと振り返ると、蔵の入り口には一人の男が立っていた。


 国軍の手先か!?


 いやそれにしてはさっきの時田とかいう奴とぜんぜん恰好が違うような……。


 時田は赤と白を基調にした軍服に身を包んでいたが、今僕の目の前にいる男は黒装束に身を包んでいた。その恰好はまるで。


「……忍者?」


 僕は小さく呟いた。


 忍者だ! 忍者!


 Japanese NINJA!


 ゲームやマンガの中でしか見たことがない、生忍者だ!


 いやいやいやいや。


 落ち着け。


 現代に本物の忍者がいるわけがない。


 ということは。


「……コスプレイヤー?」


 僕がそう呟くと、目の前の男が小さく舌打ちをした。


「……違う」


 男は高校生の僕よりも身長が低く、黒装束に身を包んでおり表情等はよくわからない。背中には一振りの刀を背負っている、そんな姿も相俟って忍者にしか見えない。


 だがコスプレイヤーではないと言う。


 ではいったい何者だというのだ。


「……本物の忍者だという可能性はないのか」


 彼は反論する。


 あー、なるほど。


 そういうことね。


「……電波さん?」


「……違う」


 黒装束の男はまた舌打ちした。


 なんと、僕の予想がまた外れてしまうとは。


 じゃあいったいあなたは誰なんだ。


「……俺はメロディーライン譲原支部13班の小清水伊作コシミズイサクだ。上の命令で、貴様をここから連れ出す」


 と黒装束の男、小清水は言った。


 僕は彼の言葉に唖然としてしまった。


 え、嘘。


「……もしかして、そっち系?」


 瞬間その男が僕の目の前まで距離を詰め、背負っていた忍び刀を僕の首元へと押し付けていた。


 えっ……。


「……黙らないと殺すぞ」


 お怒りになってしまったらしい。


「すみません」


 僕が謝罪の言葉を口にすると、忍び刀を首から離してくれた。


「……わかったらさっさと行くぞ」


「待ってください!」


 すぐに蔵から出ようとする小清水を僕は引き止めた。


 小清水は怪訝そうな顔をする。


「……なんだ」


「いや待ってください。何の説明も無しですか? 僕はいきなり現れたテロリストについて行かなきゃいけないんですか。さすがにそこまで常識失くしてはないですよ」


 僕がそう反論すると、小清水は再び忍び刀を僕の首に押し付けてきた。


「……つべこべ言うな」


 何だよ!


 説明しろよ!


 それお前が説明したくないだけだろ!


「…………」


「……なんだその目は。どうせ貴様に選択肢などない。このままここに残れば国軍に殺される。だから我々が連れ出してやろうという話だ」


「…………」


「……俺は口下手だ。支部に着いたら誰かが説明してくれる。それまでは待て」


 小清水はそう言って、蔵の出口へと向かった。


 僕は思案する。


 確かにこの男はぶっきらぼうだしテロリストだと言うが、その言葉の端々から僅かに気遣いが感じられるような気がするのだ。


 それに確かに小清水の言う通り、このままここにいても状況がどうにかなるわけでもない。推測通り僕が狙われているのなら、僕は一刻も早くこの家を立ち去るべきだ。


 僕は手元にあったアルバムとゴーグルを、手近にあった風呂敷に包み背中に背負った。どうやらこれらの物資が何かの手がかりになりそうだと思ったのだ。

 こうして僕は小清水の後に続いて蔵を出た。




 小清水は本当に忍者らしかった。


 自称忍者(笑)ではなかったのだ。


 蔵から出た後の僕らは小清水の索敵によって国軍の連中を避け、家の裏門から脱出した。家の庭には国軍の連中が闊歩していたし、時々聞こえる銃声が僕の心をざわつかせたけど、僕らは立ち止まれない。きっと武藤も翔も無事だと信じるのだ。


「小清水さんはどうしてテロリストに?」


 二人で夜道を無言で散歩と言うのもつまらないので、ちょっと雑談をしてみることにした。


「……黙って走れ」


 一蹴された。


 うん、さっきもこの人すぐに忍び刀突きつけてきたりしたし、たぶんコミュ障というか人見知りなんだろうな。


 まあいっか。




 とほとんど会話の無い中、日の落ち始めた街中を二人で疾走していると、一人の男が僕らの目の前に立ち塞がった。どうやら待ち伏せされていたようだ。


 おいおい忍者さん。


 しっかしてくれよ。


 忍者(笑)にするぞ。


 小清水が止まり僕の事をサッと手で制した。


 男は白を基調とした軍服に身を包み、その坊主頭にサングラスを載せた強面の男だった。その顔面には傷があり、いくつかの修羅場を越えてきたのだと感じさせた。


 一つ疑問。


 サングラスはかけないのだろうか?


 ファッションサングラスなのだろうか?


 と場違いなことを考える僕だが、空気からそんな場合ではないと思い気を引き締める。


 僕は空気が読める男なのだ。


「……ケッ、だから時田さんは詰めが甘いってんだ。俺が居なきゃターゲットに逃げられてるとこだ」


 男は僕を睨む。


「……国軍の東雲文太シノノメブンタ少尉か。新進気鋭の若手将校がなぜこんなところに」


 小清水は背中の忍び刀に手を添える。


「既に抜け道のほうはうちの分隊が抑えてる。正面は時田さんの分隊が抑えてるから、あとネズミが這い出してくるとすれば裏門しかねぇと思ったのさ」


 サングラスの男、東雲はそう言った。


 今の発言……。坊主頭のくせに頭が回るのか。


 意外な。


「忍者……? ああそうか。てめぇは13班の小清水だな。そこそこの大物。ここで捕えさせてもらうぜ」


「……ナメるな」


 東雲と小清水の戦いが始まった。


 僕はそれを見ているだけだ。


 怖いからね。


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