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9、サンタクロースに会いに

 ザワザワガヤガヤと、もう騙されるもんかという敵意を含んだ観客の目が注がれました。



『子役スターの諸君、本物のサンタクロースには会えたかなあ~~?』



 傷口に塩を塗るような黒サンタの言葉に、スタンドからはまたすすり泣きと、親たちの怒りのうめき声が上がりました。



『ジャジャーーン』



 デカデカ映っていたミーシャが横に避けると、後ろにはなんと、サンタクロースが椅子にぐるぐる巻きに縛り付けられていました。

 クルクル巻きの入った、銀色に輝く豊かな白ひげの、誰もが「サンタクロース」と認める、これ以上なく本物らしい立派なサンタクロースです。

 スタンドのお客さんたちの反応は…………白けたものです。



『おやおやあ? 驚きの声が聞こえないなあ? そうか、驚き過ぎて声も出ないか?

 ワッハッハッハッハア。

 こっちが正真正銘、本物のサンタクロースだあ!』



 スタンドで1人のお父さんが立ち上がって叫びました。

「嘘をつけ! 俺はその人を知っているぞ! 俺たちが子どもの頃大人気だった、サンターズ・サンタだ! 去年は久しぶりに日本に現れて大活躍だったじゃないか!?」

 そうだそうだ! ニュースで見たぞ!、と賛同する声が多数上がりました。

 黒サンタはフムフムとうなずいて、言いました。



『それがどうした? 本物のサンタクロースが、偽物のサンタクロースのふりをして、子どもたちに会いに来ていた、ってこったろうが?』



 大人たちはとうていそんなこと信じられませんでしたが、かと言って、子どもの頃大好きだったサンタクロースを悪く言うことも出来ず、困ってしまいました。それに、

 子どもの顔を見てみると、難しい話に理解できないながら、本当に本物のサンタさんなの?、と、信じたがっている目をしています。

 大人たちは困ってしまって、でも、もしまたつまらないお芝居で騙そうというなら、今度こそ、本当に、承知しないぞ!、と、厳しい目でビジョンを見つめました。

『さあーて』

 と、黒サンタは浮き浮きして言いました。



『さあーて、オレ様が純真な子役スターたちを利用して本物のサンタクロースをおびき寄せて捕まえた理由だが……、

 もっちろんそれは、

 オレ様の願いを聞かせるためさ!

 世界中の子どもたちにプレゼントを配って回る力を、大人のオレ様が1人でいただきだ! こいつはすげえ願い事が叶えられるに違いねえ!

 やあーい、世界中の良い子ども、

 今年のクリスマスにおまえらのプレゼントは………………


 無しだ!


 ぜえーーんぶ、オレ様が独り占めだ!

 ワッハッハッハッハア!』



 なんて憎々しく、大人げない大人でしょう。



『それは無理じゃよ』

『あん?』

 椅子に縛り付けられたサンターズ・サンタが申し訳なさそうに言いました。

『妖精からもらったサンタクロースの力は、良い子に1つのプレゼントしか贈れないのじゃよ。他の子の分までまとめてなんてことは出来んのじゃ。それに、…………おまえさんは、どう見ても良い子ではないのう』

 これには子どもたちは受けて、スタンドからドッと笑い声が上がりました。

 ウムムムム、と黒サンタは渋い顔でサンタを睨みました。

『なんだよお、えこひいきすんなよお。オレにもプレゼントくれよお?』

『すまんのう、悪い子にはプレゼントはあげられんのじゃ』

『なんだよおっ!』

 黒サンタはかんしゃくを起こして子どもみたいに地団駄踏みました。

『いいじゃねえか、プレゼントしてくれたって! オレは、オレはあ、

 子どもの頃から一度もクリスマスのプレゼントなんてもらったことはねえんだぞ!』

 黒サンタの悔しそうな叫びに、スタンドの子どもたちはしいんと静まり返りました。

 黒サンタは、

『なんだよ、なんだよお』

 といじけていましたが、ジロリとサンタを睨むと、恐ろしい顔になって、

『オレがこんな悪い奴になったのは、子どもの頃あんたがクリスマスにプレゼントをくれなかったせいだ。

 オレを悪い子にしてプレゼントをくれなかったサンタクロースなんて、この世から消してやる!』

 黒サンタは、ジャキン!、と、散髪のハサミを取り出して開きました。カメラに向かって、

『妖精の魔法の出所を知っているか? それはな、この真っ白なひげだ。なにしろサンタクロースといやあ豊かな白ひげがトレードマークだからな。見ろ、この輝きを! この輝きこそ、妖精の魔法の力の輝きだ! 今からこの大事なひげを………』

 ジャキ、ジャキ、とハサミを開閉させて、見ている子どもたちは恐怖の悲鳴を上げました。

「駄目ーっ! サンタさんのおひげを切らないで!」

「サンタさん、逃げてー!」

 子どもたちの声を黒サンタは実に心地よさそうに聞きました。

『ワハハハハア、もう決めちったもんね~~。

 オレ様は特別な宝物をクリスマスプレゼントに欲しいんだ。

 もうただのプレゼントなんていらねえもんねえ~~。

 オレ様にプレゼントをくれない役立たずのサンタクロースなんて………こうだ!』

 輝く白ひげに差し込んだハサミが『ジャキッ』と閉じられようとして、子どもたちは悲鳴を上げました。



「待ちなさい!」



 鋭い声がフィールドから上がりました。タコラです。

 タコラはビジョンのミーシャを睨んではっきりした口調で言いました。

「わたしがサンタクロースからもらった宝物をあげるわよ。だから、サンタのひげを切らないで!」

 ふうーん、とビジョンの大きな顔のミーシャがあまり気のない様子でフィールドのタコラを眺めて言いました。

『今さら子どもの宝物なんてもらってもなあ……』

「ただのプレゼントじゃないわよ、わたしが何よりも大切にしている、正真正銘の宝物よ」

『ふうーん、いいのかい?』

 黒サンタは意地悪にニヤニヤ笑って言いました。

『また、ニセモノのサンタクロースに騙されるかもしれないぜえ?』

 タコラはビジョンの中のサンターズ・サンタと見つめ合いました。

「いいわよ。わたしはその人が本物のサンタクロースだと信じるわ。どこに行けばいい?」

『お宝はどこにある?』

 タコラは、ポン、とエプロンの下のネグリジェのポケットを叩きました。

「いつも持ち歩いているわ」

『フウム、なるほど、本当に大事なお宝のようだな。場所は、ここだ。分かるな?』

 カメラがちょっと横を向くと、電気は消えていましたがオーナメントで飾られた大きなクリスマスツリーが映りました。

「待ってなさい。今行くわ」

 タコラはダッグアウトに一直線に駆け出しました。



 いったんカメラの中継を切り、サンターズ支部長は恐い顔に戻ってミーシャに言いました。

「おい、ロープを解け。腹が苦しくてかなわん」

「駄目駄目。芝居はシリアスにやらなきゃ純真な子どもの目は騙せないですぜ?」

「くそう……。おまえはずいぶん楽しんでわしをいたぶってるな?」

「心外ですなあ。あくまでも作戦の為ですよ」

「フン」

 ニヤニヤしているミーシャをサンターズ支部長は苦々しく睨みました。

「だが……、これで上手く行くのか?」

「さあ、どうですかなあ?」

「おい!」

「ま、」

 ミーシャはのんびりした調子で言いました。

「タコラ嬢の宝物次第ですかな。なにしろ本物のサンタクロースからもらった、特別の宝物だって言うんですから、奇跡を呼び起こしてくれることでしょうよ」

「そんな事実はない」

 怒ってばかりのサンターズ支部長が、眉を曇らせて、視線を落として言いました。

「それはあの子の思い違いだ。子どもたちの夢を壊したばかりか、あの子の大切な思い出まで壊してしまうことになったら…………」

 落ち込むサンターズ支部長を横目に、ミーシャは言いました。

「信じたらどうですかい? あの子が信じているように」

「うーむ…………」

 にっくき三太郎なんかに諭されて面白くないながら、サンターズ支部長はじいっと考え込みました。



 街を駆けたタコラは、メリーズの前にやってきました。ビジョンに映し出されたツリーは、あのミーシャと出会ったこのデパートのキッズフロアの物です。

 なのですが、営業時間が過ぎて、メリーズのエントランスはシャッターが下りていました。

 ハアハア息をついて、ここで間違いないはずなんだけどと辺りを見渡すタコラに、角から手招きする人物がいます。

 駆けていくと、それはキッズフロアマネージャーのクリーン氏でした。

「ファミング嬢。ようこそいらっしゃいました。特別入場口はこちらでございます」

 と、クリーン氏が案内したのは従業員出入り口。横の道には映画でCIAなんかが使うような大きな白い四角い車が止まっていましたが、サンターズ支部長はミーシャ捕獲の指揮を執る為、自らこの車で出動していたのでした。

「こんな所ですみません」

 と言いながらクリーン氏はなんだかとても楽しそうでした。不思議な顔をするタコラにクリーン氏は、

「クリスマスイブにサンタクロースのお手伝いが出来るなんて最高ですよ!」

 と言いました。

「わたしがこのデパートに入社したのは、子どもの頃このデパートでサンタクロースに会ったからなんです。あのサンターズ・サンタですよ! それが、キッズフロアのマネージャーになって、大好きだったサンターズ・サンタのお手伝いが出来るなんて、なんて素敵なんだろうと思います」

 通路を案内しながら嬉しくてたまらない様子のクリーン氏を見て、ふと、タコラは我に返るように不安になりました。

「あなたはあのサンタさんが本物のサンタクロースだって、信じているんですか?」

「びっくりしました!」

 クリーン氏は目を丸くして、笑いました。

「でも最高に素敵じゃないですか! 子どもの頃出会った自分のサンタさんが、本物のサンタクロースだったなんて!」

 タコラはおつきあいで微笑みながら、大人のクリーン氏が本当にサンタクロースを信じているのか、分かりませんでした。

 エレベーターでキッズフロアに着くと、灯りの落とされたフロアに、ツリーの辺りだけ、演出用のろうそくランプの灯りでオレンジ色に浮き上がっていました。

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