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7、暴走サンタクロース

 輝くように真っ白な豊かな白ひげの、ぷっくり膨らんだ赤いほっぺたの、それはもう見るからに本物のサンタクロースでした。

 スタンドの歓声に『しー』と指を立て、チャーミングに微笑むと、どっこいしょと煙突に登り、中の壁の取っ手を掴んで降りていきました。下の暖炉の火はもう消えていますし、元々ホログラムの映像なので熱くありません。

 暖炉から現れたサンタクロースはびっくりしているお父さんのマローリーとお母さんのタコラに

「メリー・クリスマス。ご主人。奥様」

 と挨拶し、

「子供部屋は2階でよろしいかな?」

 ときいたので、階段から下を覗いていた子どもたちのホーミーとモモエは慌ててベッドに飛んでいって潜り込みました。

「ああ、その前にお2人にもプレゼントを」

 サンタクロースは袋を探り、緑色のクリスマスラッピングの包みを取り出し、マローリーとタコラにそれぞれ渡しました。

「わあ、ありがとう!」

 マローリーはお父さん役を忘れて喜び、タコラも

「ありがとう」

 と受け取りましたが、

「でもわたしはあなたが来てくれただけで十分幸せだわ。これはどうぞ他の子どもにあげてください」

 とプレゼントを返しました。サンタクロースはうなずいて受け取ると、代わりにタコラをハグして優しく頭を撫でました。

「とても優しい子に成長して、とても嬉しいよ」

 その言葉にタコラはハッと顔を上げて、まじまじとサンタクロースの顔を見つめました。

「わたしのことを覚えていてくれたの?」

 サンタクロースは言葉の代わりにニッコリ微笑み、タコラも最高の笑顔になりました。

「さて、わしは仕事をしなくてはならないなあ。なにしろ今夜は1年で最も忙しい夜だからなあ」

 と、2人に手を振って、階段に向かいました。

 階段を上がっていくサンタクロースをタコラはもう胸いっぱいの様子で見送っていましたが、サンタクロースが2階に上がってしまうと、

 マローリーが何やらすばしこく動き出しました。

 もらったプレゼントの包装を半分までびりびり破いたところで椅子の上に放り出し……ちなみにプレゼントは映画に登場する変形ロボットだったようですが、

 彼はサンタクロースが出てきた暖炉に飛び込み、煙突を登っていきました。

 2階では寝たふりをしていた2人がサンタクロースが枕元にプレゼントを置こうとしたところで飛び起き、感動の対面を果たしていましたが、

 その上の屋根に、ジャーンと、赤いサンタの帽子と服に早変わりし、大きな白い袋を持ったマローリーが飛び出しました。

 屋根の上と2階の子供部屋と、スタンドの子どもたちはどっちを見たらいいか忙しく視線を動かして、

 何やらおかしな様子に下のサンタクロースが気づいて慌てだした頃、

 マローリーはソリに乗り込み、

「それ!」

 と手綱を打ち、屋根からはみ出して宙に立っていた7頭のトナカイたちは、首輪や帯についた鈴を鳴らしながら走り出しました。

「おおーい! おおーい!」

 びっくりしたサンタクロースが手すりから身を乗り出して呼びかけるのを、転落しないようにホーミーとモモエが後ろから腰のベルトを持って引っ張り、スタジアムの上を旋回するトナカイソリを揃ってあっけにとられた顔で追いました。

 空飛ぶトナカイソリは上空で大きく走り回っていましたが、操縦するマローリーはだんだんこつを掴んできて、下に降りてくると、スタンドの内側を得意になって観客に手を振って走らせ、ぐるぐる回ると、またいったん上空に戻り、また下に降りてくると、今度は

「メリー・クリスマース!」

 と、お客さんの上に自分が用意してきた袋の中からキャンディーの包みをばらまきました。色とりどりのキャンディーが降ってきて、

「当たりは金貨が入っているよ!」

 と言うので大人まで必死になってキャッチしようとしました。



 モニターでスタジアムの様子を見ていたサンタ評議会のメンバーはびっくりして、かんかんに怒りました。

「なんてことを! こんなに派手に動き回られたら、とてもこれが偽物の空飛ぶソリだなんて誤摩化せないぞ!」

 しかしサンタになったマローリーは、

 外に出て

『下りてきなさい! マローリー!』

 と大声で怒鳴るタコラに、

『ベー』

 と小憎たらしく舌を出し、

『ハイヨー!』

 と、スタジアムを飛び出して街へ飛んでいってしまいました。

「なんてことだ…………」

 評議会メンバーは眉間に深いしわを刻んで頭を抱え込んでしまいました。



「ああ………………」

 下に下りてきてフィールドに出た本物のサンタクロースは、スタンドの壁を越えて外に飛んでいくトナカイソリを見送ると、すっかりがっかりして、途方に暮れてしまいました。

 となりにタコラがやってきて

「ごめんなさい」

 と謝りました。

「彼がこんなことを企んでいたなんて、ちっとも知らなかったの。本当にごめんなさい」

 サンタクロースはタコラの頭を軽く叩いて微笑もうとしましたが、眉は歪んで、頬はこわばっていました。ショックが大きすぎたようです。

 悲しそうなサンタクロースをタコラは一生懸命励まそうとしました。

「でも、これで世界中の子どもたちがサンタクロースは本当にいるんだって信じられるわ! とっても素敵なことじゃない?」

 サンタクロースはじっと瞳の奥からタコラを見つめ、かすれ気味の声で言いました。

「サンタクロースは、君が思うほど大したものではないんだよ」

「そんなこと断じてないわ! わたしはあなたのおかげで夢を……」

 サンタクロースは悩ましく頭を振ってタコラの言葉を遮り、言いました。

「それは、わたしじゃないんだよ。5歳のクリスマスイブに君を訪れたというサンタクロースは、わたしじゃあないんだ」

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