表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

6、サンタクロースがやって来た!

 子ども時間で11時(本当の時間で7時)を過ぎました。

 壁のドアが開いて居間に4人の子役スターたちが入ってきました。すっかり飽きて「ねえ、まだあ?」とお父さんお母さんを困らせていた子どもたちも、大人気の彼らに歓声を上げました。

 4人はパジャマとネグリジェ姿で、この家の一家を演じているようです。

 鼻ひげのマローリーがお父さん、

 エプロンにほっかむりのタコラがお母さん、

 大きい靴下を抱えたホーミーと、

 熊のぬいぐるみを抱えたモモエが子どもたちです。

 暖炉を囲んで、子どもたちにねだられてお父さんお母さんがクリスマスの夜のお話をします。

 サンタクロースは何故プレゼントを靴下に入れるのか、由来を話し、

 さあ、朝目覚めた時の枕元のプレゼントを楽しみに早く寝なさい、夜遅くまで起きている悪い子のところにはサンタさんは来てくれないわよ?と子どもたちを2階の子供部屋へ追いやり、お父さんはパイプをくゆらせながら読書を、お母さんは編み物を始めます。

 2階に上がってベッドに入った子どもたちですが、興奮してあれこれおしゃべりして、でもじきに眠ってしまいます。

 外はすっかり真っ暗で、ちらちら雪が舞い降りて、とても静かです。

 そこへ表のドアをノックして、全身真っ黒な、黒ひげの大男が訪ねてきます。

 みんなの嫌われ者の高利貸しです。

 一家はこの男にお金を借りているのです。

 高利貸しは今月分の利息の取り立てにやって来たのですが、家にはお金はありません。どうか年明けまで待ってくださいと頼む夫婦に、金目の物を捜して部屋中あさる高利貸しは、夫婦が子どもたちの為に用意していたクリスマスのプレゼントを見つけます。

 なんだ、人から借りた金も返さずに、こんながらくたを買いやがって、

 しょうがねえ、今月分の利息の遅延分にこんな物でももらっていってやる、

 と、あくどい黒い高利貸しは子どもたちのプレゼントを持っていこうとします。

 どうかそれだけは。今夜はクリスマスイブではありませんか? どうぞお慈悲をお掛けください、

 と頼む夫婦に、黒い高利貸しは意地悪に言います。


『ふん! クリスマスのプレゼントならサンタクロースに頼むがいい! 貧乏人の子どもたちの為に、喜んでトナカイの引くソリで飛んで来てくれることだろうぜ!』


 お父さんお母さんも胸の前に手を合わせて空にお願いします。


『ああ、サンタクロース。あなたを信じる子どもたちの為に、どうか空を駆けてやって来てください』

『サンタクロース!』


「サンタクロース!」

「サンタさーん!」

 と、スタンドの子どもたちも空に向かって大きな声で呼びかけました。

 すると……


 空に銀色のオーロラが現れ、ゆらゆらと七色に揺らめき、その中に、キラリ、キラリ、と輝く物があります。

 子どもたちが口を開けて真剣なまなざしで見つめていると、キラリ、キラリ、と輝きは弧を描き、シャンシャンシャン、と、鈴を鳴らす音が聞こえてきました。

 子どもたちの期待は息苦しいほどに膨れ上がっています。

 シャンシャンシャン……

 空高く、オーロラのカーテンが揺れる下に、ぐるぐる円を描いて飛ぶ影が見えます。

 まさか、まさか、と子どもたちの期待は爆発寸前です。

 シャンシャンシャン……

 音は次第に大きくなって来て、

 飛び回る影がはっきり見えてきました。

 飛行機ではありません、ヘリコプターでもありません、あれはまさしく、

 7頭のトナカイに引かれたソリです! そしてそのソリに乗って手を振っているのは……



「サンタクロース!」



 子どもたちは大声で叫び、喜びを爆発させて飛び跳ね、感極まって大泣きする子どもたちもたくさんいました。

 サンタクロースが、本当に来てくれたのです!


 みんなの視線がすっかり上に向かっている間に、フィールドにはいつの間にか地面の上に白い霧が立ちこめていました。

 子役スター4人も屋根の下から身を乗り出すようにして空を見上げていました。

「こいつは驚いた、本当に現れやがった」

 と黒いサンタのミーシャも驚いて空を見ていましたが、その足下、膝の上まで白い霧は上がってきて、何やら冷たい感じに下を向いた拍子に、

「わっ」

 と驚いた一言を発して、ばったり仰向けに倒れて、霧の中に消えてしまいました。

 異変に気づいたタコラが振り向くと、

 すっくと、黒い大男が立ち上がりましたが、タコラがびっくりしたことには、背格好はよく似ていましたが、その男はミーシャとは別人でした。

 謎の大男は『しっ』と唇に指を立て、インカムを差し出しました。

 タコラがいぶかしがりながら耳に装着すると、年配の男の人の声……サンターズ支部長の声が言いました。


『タコラ・ファミングどの。どうぞ騒がずに聞いてください。わたしはCIAの上級部長サンダーズと言います』


 嘘です。


『あなたが雇っていたミーシャなるロシア人は、国際指名手配されている凶悪な犯罪者なのです。詳細はきかないように。あなたにも迷惑をかけることになりますのでな。彼の身柄は我々が確保しました。後は我々に任せて、彼の役は、その彼に任せてください。では、メリー・クリスマス』


 代役の黒サンタが手を出し、インカムを回収しました。彼はニッコリ笑って、

「上手くやりますよ」

 と安心させるように言いましたが、大人たちに交じって映画の仕事をしているタコラにはその笑顔がミーシャよりずっと恐ろしく、危険に感じられました。


 上空で円を描いていた空飛ぶトナカイソリが、徐々に下に下りてきました。


 代役黒サンタは家から外に飛び出すと、

「うわあ、なんてこった、本当に本物のサンタクロースが来やがった! ううむ、こいつはオレ様の完全な負けだ。ごめんなさーい!!」

 と、大げさな素人芝居をして、ポカーンと空を見上げるアルバイトサンタたちをかき分けて、そそくさとダッグアウトに駆けていきました。が、そんなことを気にかけているのはタコラくらいのもので、みんなもうはっきり手を振るサンタクロースの笑顔まで見える距離まで近づいてきた空飛ぶトナカイソリに大興奮でキャーキャー歓声を上げています。

 タコラはミーシャが倒れ込んだ辺りの霧を足でかき回してみましたが、何もなく、諦めて、せっかく現れてくれた本物のサンタクロースに意識を集中させました。


 トナカイの引くそりは屋根の頂の棟に着陸し、

『どっこいしょ』

 と、大きな袋をしょって、サンタクロースが煙突のとなりに降り立ちました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ