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4、大人たちの裏事情

 これが事実なのですが、サンタクロースは実在します。

 ただし、実在する為にはそれなりの現実的な仕組みがあります。

 サンタクロースは何十人、何百人もいるのです。

 元々は1人のサンタクロースから始まったのですが、サンタクロースの伝説が世界中に広がっていき、世界中にサンタさんの訪れてくれるのを待つ子どもたちが増えていくと、とても1人で回れるものではなく、サンタクロースもすごく高齢のおじいちゃんになってしまいましたし、世界中の子どもたちにプレゼントを用意するお金もありません。

 そこで、サンタクロースの家がある北極に、サンタの国が作られ、世界中の子どもたちの為の組織が作られていきました。世界中を回る為にサンタクロース公認の「本物のサンタクロース」が誕生していき、世界の子どもたちの事情をリサーチする為にそれぞれの地域、国に、「サンタの国の支部」が作られていきました。

 子どもたちに贈るプレゼントを用意する為には莫大な額のお金が必要です。

「サンタの国」は色々なつてで世界中の大金持ちや大企業にスポンサーになってもらっています。


「サンタの国アメリカ支部」は世界で最も大きな支部です。

 その支部長は、今は引退した伝説の大人気サンタクロース=クウデル・サンターズが務めているのですが……彼の人となりに関しては去年の「黒いサンタクロース」のお話を読んでくださいね。


 さて。

 今回の「ロマンテラス市サンタクロース大量誘拐事件」への対応について、「サンタの国アメリカ支部」の会議室に、「サンタの国北極本部」の「サンタ評議会」メンバーがテレビ電話で参加して、会議が開かれました。


『困った事態になってしまった』

 評議員の言葉に一同はう~~むと重苦しく押し黙りました。

『アメリカ支部長。ことが公になる前に手を打つことは出来なかったのかね? サンタクロースが大量に失踪した時点で、サンタ支部が調査に乗り出すべきではなかったのかね?』

 サンターズ支部長は元大人気サンタクロースとは思えない苦虫をかみつぶしたみたいな顔で答えました。

「犯人がタコラ・ファミング以下4人のスター子役たちであるのは調べがついていた。だが、彼らの目的は街中のサンタクロースを独り占めしてイブに特大のサプライズパーティーを開くことで、『本物のサンタクロースをおびき出す』なんてことではなかったはずだ。彼らをそういう風に導いたのは、あの、サンタの国の一員にあるまじきトラブルメーカー、日本の黒サンタ、黒岩三太郎だ」

 フウム……、と一同も難しい顔でうなずきました。

『昨年のクリスマス明けにサンタ警察の手から仲間の襲撃に助けられてまんまと逃げ失せた犯罪者か……。まさかあのような形で堂々と姿を現すとは、まったく、大胆でけしからん奴だ』

『それで、どうする?』

『三太郎は凄腕の黒サンタだ、ああして大胆に挑戦してきて、どんな罠を準備しているか分からん。子役スターの4人も、自分たちに自覚はないだろうが、本当に奴の人質にされていると見なければならないだろう』

 本部の評議会メンバーはあれこれ予想して議論を重ねましたが、その様子を眺めていたサンターズ支部長は、

「黒岩三太郎のことはわたしに任せていただきましょう」

 と宣言しました。

「奴がにっくき犯罪者であるのは明白。このアメリカでああして姿を現したからには、我がアメリカ支部にお任せを。我がアメリカ支部には最強の特殊部隊がありますからな。決して子どもたちを傷つけぬよう、見事な手際で奴を捕らえてご覧に入れますよ」

 メンバーも、それが一番だろう、と納得しました。

『それでは三太郎のことはあなたに一任しましょう。良い結果を期待します。

 しかし……

 難しいのは子どもたちへの対応だ』

『さようですなあ』

 一同はまたう~~むと考え込みました。

『子役たち4人ばかりではない、あの犯行声明によって、世界中の子どもたちの目がイブのドヤー・スタジアムに向かってしまった。サンタクロースが現れなければ、世界中の子どもたちはみんな、やっぱりサンタはいないんだ、と、がっかりするだろう……』

『かと言って、本物のサンタクロースが現れて、サンタクロースの実在を証明するわけにもいかない……』

『さよう。サンタクロースは万能ではない。残念ながら、世界中全ての子どもたちの下を訪れることは出来ないのだ。今年以降、サンタクロースが訪れなかった子どもは、自分は悪い子だからサンタさんは来てくれなかったんだ、と落ち込んで、グレてしまうかもしれない……』

 う~~~む…………、とみんな困って考え込んでしまいました。

 ここでまたサンターズ支部長が提案しました。

「要するに、サンタを心から信じる子は信じ続け、そうでない子は半信半疑のまま、という今現在と同じバランスを保てればいいわけですな?」

『それが可能ですか?』

「ええ。こちらの、プロフェッショナルの方々の協力を得れば」

 アメリカ支部の薄暗く殺風景な会議室には、サンターズ支部長と、彼の忠実な事務官2人……以上3人はサンタの制服である赤い服を着ているのですが、他に4人、普通のスーツ姿の男女がいました。

 この会合の様子を外の一般の人が見たら、やっぱりびっくりしたことでしょう。

 4人のサンタ以外の人物、それは、



 スマーティー・スピンロック氏、68歳。

 「ボーズ」「ミッチーとの遭難」「E.T.C.」「ヘブンリー・ボーンズ」「ジュラシックパーグ」監督。「ゴリムリン」「バッハ・トゥ・ザ・バーバー」「メン・イン・ブランク」「バランスボーラー」プロデューサー。


 フェーマス・ドルフィン氏、60歳。

 SFファンクミュージカル「パーマネンター」、感動のドラマ巨編「パニパニック」、3D海洋ラブファンタジー「アマラー」の歴代トップヒットの巨匠監督。


 ティム・サンクス氏、58歳。

 「ラージ」「フォルテッシモ・ガンボ」「アフロ13」「ユウ・ガット・ブラックメール」「ザ・ボンチ・コード」等々、コメディーからシリアスまで幅広く演じる名優。「パーラー・エクスプレス」「トイ・スピーカー」等アニメの声でもお馴染み。


 ジュディー・ファスター氏、52歳。

 「タキシード・ドライバー」でマカデミー助演賞を授賞し天才子役として活躍、超一流大学を卒業後、「狼たちの喧噪」でマカデミー主演賞受賞。監督業もこなす、トップ演技派女優。



 いずれもフィグウッドで絶大な影響力を持つ映画界の超VIPです。

 サンタクロースは妖精からもらった魔法も使えますが、現代社会の様々な状況に対応する為、最新の科学技術も利用しています。その技術を提供してもらっているのが、NASU=アメリカ航空宇宙機構であったり、常に最先端の映像技術を開発しているフィグウッドの映画会社だったりするのです。

 そしてフィグウッドは赤と白のロゴでおなじみの清涼飲料水会社と共にサンタの国の経済的な主要スポンサーでもあります。

 もちろん、NASUにしろフィグウッド映画スタジオにしろ、すべての職員がサンタの国のことを知っているわけではありませんが、上級職員たちには公然の秘密なのです。

 もし、あの4人の子役スターたちが、将来に渡って成功していったなら、いつの日か秘密のメンバーに迎え入れられ、本物のサンタクロースの真実を明かされる日が来たかもしれないのですが。


 サンターズ支部長が特に映像技術に詳しいスピンロック氏とドルフィン氏に意見を求めました。

「どうですかな、フィグウッドの技術で『本物としか思えないサンタクロース』を公衆の面前に出現させることは出来ますかな?」

 スピンロック氏が答えました。

「アニマトロニクスのトナカイのソリを、リモートコントロールの小型無人ヘリ数台で吊るして飛ばすことは出来るだろう」

 ドルフィン氏も答えました。

「わたしのラボでは特殊なメガネなしで映像を立体で見られるモニターを開発している。それを夜空に飛ばせばリアルなCGのトナカイソリを出現させることが出来るだろう」

 評議員が質問しました。

『フィグウッドの映像技術の素晴らしさは理解しているが、それをライブで大勢の観客に見破られないだろうか? 当日はきっとスタジアムに大勢の子どもたちが集まっていることだろうが?』

 この指摘にはさすが映像の魔術師の2人も難しい顔をしました。

 しかしサンターズ支部長はこともなさそうに言いました。

「では、本物のサンタクロースに本物の空飛ぶトナカイソリで登場させたらいい」

 評議員たちは渋い顔をしました。

『それでは困るという話をしているのだが……』

「どうですかな」

 サンターズ支部長は改めて2人にききました。

「映像を加工してさりげなく『偽物の証拠』を付け足すのは?」

「それは雑作もないが」

 サンターズ支部長は満足そうにニッコリしました。

「4人の子どもたちが集めたサンタクロース実在の証拠というのも世界中の携帯電話や監視カメラに捉えられた映像でしょう。現在の映像技術はたいへん進んでいる。どんな映像でもコンピューターの中で作られてしまうほどに。どんなに本物らしい映像でも、ちょっとでも怪しいところが見つかれば簡単に、『なあんだ、やっぱりCGか』と思われてしまう。たとえ目の前で実際に見ていっとき興奮しようとも、後から映像の中ではるか上空からヘリコプターで吊るしているピアノ線が見つかれば、やっぱり、『なあんだ、やっぱり手品の偽物だったのか』と思うことでしょうな、少なくとも映像でしか見ることの出来ない世界中の子どもたちはね。中には、『いや、やっぱりあれは本物のサンタクロースに違いない!』と信じる子もいるでしょうが……、信じる子と半信半疑の子と、結果的に現在と変わらないバランスが保てるでしょう」

 なるほど、と一同は感心しました。

「でも」

 サンクス氏が納得し切れない様子で言いました。

「そうやって純粋な子どもたちを騙すのは、心苦しくないか?」

「仕方ありませんでしょう」

 サンターズ支部長は割り切った顔で言いました。

「我々は本物のサンタクロースなのだ、現実的に物事を考えねばならん」


 けっきょく他にいい案も出ず、『本物のサンタクロース』の件もサンターズ支部長に任せることになりました。

 会議が終わって執務室に戻った支部長は、犯行声明の映像を見直して考えました。

 険悪な顔つきになり、1人なのでつい腹立たしい声を出してしまいました。

「おのれ黒岩三太郎め、またしてもわしの面子を潰す真似をしおって」

 支部長が子どもたち4人の犯行を察知していたのは本当でした。子どもたちが自分たちの為の秘密のクリスマスイブパーティーを計画していると内部情報を得ていたのも本当なのですが………

 支部長が怪しんでいるのは、

「奴に黒サンタの記憶はないはずなのだが………」

 そうです、去年クリスマスの後でサンタの国の警察隊から黒岩三太郎の身柄を奪い去ったのは、三太郎の仲間の仕業ではなく、サンターズ支部長の秘密の命令を受けたアメリカ支部の特殊部隊の仕業でした。

 極秘裏にアメリカ支部に連れて来られた三太郎に、サンターズ支部長は「記憶を消す」という罰を与え、自分が誰かすっかり忘れてしまった三太郎を無慈悲にも街に放り出してやったのでした。

 ところが三太郎は「黒サンタ」として、まるで自分に挑戦するかのような登場をしてきました。

「奴には特殊部隊にも使用が禁止されている超強力な催眠術をかけてあるのだ、自力で記憶を取り戻すことなど不可能なはずだが………」

 ということは、

「奴はやはり子役たちに雇われて演技しているだけか……。とすると、今回のサンタおびき出し作戦の主犯はやはり子どもたちということになる………」

 事前に収集していた情報に、まんまと騙されたということです。彼らは自分たちの身近にもサンタクロースの存在を察知していて、お芝居していたのでしょう。なんと抜け目のないことでしょう。

「まったく、なんて悪い子たちだ。フン、そんな悪い子たちの下に本物のサンタクロースが訪れてやるものか! おまえたちなど黒いサンタがお似合いだ!」

 忌々しく椅子にふんぞり返り、大きなお腹の上で手を組むと、自分を落ち着かせて言いました。

「ともかくも黒岩三太郎だ。記憶が戻っていようといまいと、おまえはサンタの国に反逆する極悪人として我が精鋭特殊部隊が捕獲し、今度こそ、2度と帰って来られない地の果てへ追放してやる」

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