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3、犯行声明

 夜になって、ロマンテラスで発生していた謎のサンタクロース失踪事件の犯人から犯行声明が発表されました。

 インターネットの動画投稿サイトは元より、テレビ局、ラジオ局にも動画が送られ、ロマンテラスどころか、アメリカ中の主立った都市の街頭ビジョンに午後8時、一斉に映し出されました。

 いきなりドンと現れたのは、白い襟の黒いコートを着た、白い折り返しの黒いコサック帽子を被った、硬い真っ黒なひげを生やしたロシア人です。


『ヒッヒッヒッヒッヒイ。オレ様は黒いサンタクロースだ。

 ロマンテラス中のサンタクロースを誘拐したのはオレ様だ。なぜならば、

 オレ様はクリスマスだのサンタクロースだのいう物が、じんましんが出るほど大っ嫌いなのだ!』


 黒いサンタクロースを名乗るロシア人はかゆくてたまらんという風にあごひげに手を突っ込んでぼりぼり首をかきむしりました。


『目障りなサンタどもを片っ端から誘拐してやったが、ついでにもーっと目障りな奴らも誘拐してやった。こいつらだ!』


 黒サンタがカメラの前からどけると、後ろには4人の少年少女が立っていたのですが、映像を見ていた人たちが「あっ!」と驚いたのは、その4人というのが、


 1人はあのミニシャーロックホームズの美少女で、今は帽子を脱いで艶やかな金色の髪を肩に乗せています。

 1人は眠そうな目をした、栄養失調のトウモロコシみたいな面長の少年、

 1人はやっぱり金髪でお人形みたいに整った顔をしているくせにやたら気の強そうな尖った表情の少女、

 1人は純粋そのもののつぶらな瞳をした子犬みたいな少年、


 なのですが、この4人というのが…………


『ワハハハハハハ、驚いたかあ?』


 再び画面にデカデカ入ってきた黒サンタが自慢するのは、


『そうだ! 世界中で大人気の、フィグウッド映画の小さな大スターたちだ!』



 タコラ・ファミング。

 代表作は、7歳でビーチボールズの名曲に乗って父親と共に伝説の大波に挑戦する天才少女サーファーを演じた感動作「アイ・アム・サーファー」。現在13歳。


 マローリー・カテキン。

 代表作は、10歳で迫り来るオオカミの群れからあの手この手を駆使して1人で牧場の牛たちを守る少年カウボーイを演じたアクションコメディー「ファーム・アローン」。現在14歳。


 モモエ・グレイス・モルト。

 今年、悪は絶対許さない、キュート&バイオレントな美少女スーパーヒロインを演じた異色アメコミ「ホット・アス」でブレイクした11歳。


 ホーミー・ショコラ・コメット。

 代表作は、昨年、極度の怖がりやで、恐怖が極限に達するととんでもないスーパーサイキックパワーを発揮するギャップ少年を演じたエキセントリックホラー「マックス・センス」。現在12歳。



 世界中に驚きがわき起こったように、4人とも超有名な子役スターセレブです。


『オレ様はクリスマスもサンタクロースも大嫌いだが、クリスマスとサンタクロースが大好きなキラキラ夢見る瞳をした良い子も大嫌いなのだ。

 そんな良い子たちの代表として有名なこの4人を誘拐したわけだが……

 こいつら、生意気にもこのオレ様に楯突きやがった。


 「サンタクロースはいるわ!」


 だってよ。へっ、


 本物のサンタクロースなんて、この世にいるわけねーーだろ?


 あんなのはオモチャ屋と清涼飲料水会社が作ったただのキャラクターだ。

 まったく、お子様どもが、笑わせてくれるぜ、

 ワーッハッハッハッハッハ・・』


 タコラ・ファミングが横から黒サンタをドン!と突き飛ばして、カメラに向かって訴えました。


『サンタクロースは実在します! ね、みんな?』


 彼女を応援するように左右から他の3人も集まって、カメラに向かって言いました。


『そうさ、サンタはいるよ!』

『この世にサンタがいないなんて、まったく、最低にナンセンスだわ』

『サンタはいないと思っているなんて、大人ってかわいそうだね』


『わたしたちはサンタクロースが存在するという具体的なデータを持っています』


 タコラが賢そうな顔で得意げに説明しました。


『わたしたちはこの数年間の世界中のクリスマスイブを観察して、いくつもの本物のサンタクロースでなければ不可能と思われる事例を発見し、1つ1つ最新の科学技術で詳細に検証していきました。その結果、やはりサンタクロースの起こした奇跡であると認定できる事例が複数判明したのです。

 これは子どもの妄想ではありません、

 サンタクロースは、本当に、この世に、実在するのです!』


 興奮気味に頬を紅潮させて言い切ったタコラに、横から黒サンタが意地悪に言いました。


『それが大人の嘘なんだよ。おまえらが検証を依頼した研究所の大人たちは、おまえらセレブのお子ちゃまたちを喜ばせようと、おまえらの気に入るもっともらしい報告をしてやったのさ』


 あーあ……、と4人は哀れっぽく首を振りました。


『大人ってこれだからなあ……。子どもは自分たちより頭が悪いと思い込んでいるから哀れだよね』

『証拠ならあるんだけどなあ』

『でもどうせ認めないのよね、ガリレオが地球は丸いって言った時みたいにね』


『あったりめーだ。本物のサンタクロースなんているわけねえ。本当にいるんなら、



 出てきてもらおうじゃねーか?』



 黒サンタはにくったらしくカメラに向かって大げさに呆れ返ったポーズをとりました。けれど、


『そうよ! サンタさん、お願い! わたしたちの前に、姿を現して!

 世界中の子どもたちに、サンタクロースは本当にいるんだよ、と、教えてちょうだい!』


 タコラが目をキラキラさせて訴え、3人も、


『『『サンタさん、お願い!』』』


 と声を揃えてお願いしました。再びタコラ。


『ドヤー・スタジアムをクリスマスイブに借りました。

 フィールドの真ん中に家を建てるから、プレゼントを持って来てね?』


『フン。どうせ偽者のサンタがヘリコプターでやってくるだけさ』


『そうね。サンタさん。ちゃんと空飛ぶトナカイソリでやってきて、家には大きな煙突を作るから、ちゃんとそこから入ってきてね?

 わたしはプレゼントをもらえるいい子よね? 映画でもらったギャラの中から、たあーくさん、慈善団体に寄付したんだから?』

『僕もしたよ』

『僕も』

『わたしもしたわよ! ……みんなほどじゃないけど……』

『だから、ね、サンタさん。きっと、きっと、きっと、

 クリスマスイブにドヤー・スタジアムのわたしたちの家に、プレゼントをしに来てね?

 絶対に、心から信じて待ってるから!』


 3人も頷いて、ぐっ、と力を込めた真剣なまなざしでカメラを見つめました。


『まあ、そうだなあ、本当に空飛ぶトナカイソリでやって来られたら、さすがのオレ様も信じざるを得ねえかなあ~。

 だが、

 もし来なければ、おまえの身代わりに捕まっている300人の偽サンタクロースどもを、帽子をぬがして、ひげをむしり取って、履歴書のプロフィールを世界中に公表してやる。良い子のみんなが、

 「やっぱりサンタさんって、求人広告で雇われたアルバイトの人なんだ……」

 って、思いっきり幻滅するようになあ。ワハハハハアー。

 良い子たちの夢を守りたければ、クリスマスイブにはまずドヤー・スタジアムにやってくることだ。

 待ってるぜえ!』


『『『『待ってまーす!』』』』


 と、最後はみんなでカメラに向かって手を振って、動画は終わりました。



 アメリカ中で、インターネットを通じて世界で、この「犯行声明」を見た人たちはあっけにとられました。

 ロマンテラスで起こっていたサンタ失踪事件の犯人は分かりました。

 動画に登場した黒サンタに誘拐された、フィグウッド映画の子役スターたちです。

 失踪したサンタたちは、大金持ちの彼らがお金を払って誘拐されてもらっていたのでしょう。

 動画を見た世界中の人々は、浮世離れしたセレブのお坊ちゃんお嬢ちゃんたちの馬鹿げたイタズラに呆れ返りました。有り余るお金に物を言わせた、世界中の注目を集める為の大掛かりなクリスマスイベントか、でなければ、きっと今制作中の映画の宣伝なのでしょう。この4人が本当に悪い奴に誘拐されたりしたら、とんでもない大騒ぎになっているはずですから。

 呆れ返る人もいれば、人騒がせなと怒りだす人もいて、でも………

 大人にとっては馬鹿馬鹿しいだけの子どもの企みが、果たしてそれだけで済むのでしょうか?



 犯行声明の撮影を終え、監督から「カット」の声がかかると、子役4人は「黒サンタ」を演じたミーシャに拍手を送りました。

「いやあ、上手上手。君、エージェントとは契約してる? 今度僕が主役の映画に出られるようプロデューサーに話をしてやってもいいよ?」

 年長のマローリーに褒められて、ミーシャも上機嫌に応じました。

「映画俳優か。フム、それも面白そうだ。よろしく頼みますぜ、小さな旦那。ところで」

 ミーシャは腰を屈めて雇い主のタコラにこそっとききました。

「もしかしてあんたら、本当に本物のサンタクロースがいるなんて、本気で信じているのかい?」

 やれやれ、とタコラは腕を組んで頭を振り、他の3人もニヤニヤしました。

 タコラはバチッと大きな目を開いてミーシャを正面から見つめました。

「もちろん本気よ。わたしたちは本当にサンタクロースの実在を確信しているの。ま、頭の固い大人にはにわかには信じられないでしょうけれどね。今回の計画は、確実な事実の、最終的な証明なのよ」

 自信満々のタコラにミーシャも、はいはい、とうなずきました。

「首尾よく本物のサンタが現れるといいな」

「来るわよ、絶対。きっと、きっと、来てくれるわ…………」

 タコラは真剣なまなざしで遠くを見つめるようにして言い、ニヤニヤ眺めているミーシャに嫌な顔をすると、ニッと笑ってお返しに言いました。

「あなた、赤いサンタは全然似合わないけど、黒いサンタは本当によく似合ってるわね?」

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