12、今年のクリスマスの後始末
サンタクロースが本物か偽物かは明日の子どもたちの判断に任せるとして、
中継が終わるとサンターズ支部長は、
「オッホン」
と咳払いして、ミーシャに言いました。
「まったく、実に黒サンタらしい無茶なやり方だったが……、ともかくも、ありがとう。これでおそらく子どもたちのサンタクロースへの思いは、まあ、半分半分といったところに落ち着くだろう」
「いえいえ、なーに。オレは雇い主から約束のギャラをいただく為にやったまでで。サンタの国の事情なんて知ったこっちゃねえが…………
今年のサンタの活動は、ちっとくらい派手に目立ってもかまわねえんじゃないかねえ?」
「うん?」
「空をトナカイソリが飛んでいたって、『ああ、フィグウッドのSFXだ』としか思われねえだろう?」
「フフ、なるほどな、それはそうかもしれないな」
今年のクリスマスの夜は世界中の空で空飛ぶトナカイソリが見られるかもしれません。
それを見た子どもたちの中には、「あれって本当にヘリコプターで吊っているのかな? そんな物、全然見えないけれど……。ひょっとして、あれは、本物のサンタクロースのソリなんじゃないか?」と考える子がいるかもしれません。
なんでもかんでも最新科学のせいに出来るのですから、考えようによってはサンタクロースの活動しやすい時代なのかもしれません。
愉快に笑っていたサンターズ支部長が、じっとミーシャを見つめると、言いました。
「君には礼をしなければいかんな。支部に来たまえ。消去した記憶を返してやろう」
「いえいえ、それはもうけっこう。オレの本名は黒岩三太郎。日本の黒サンタ。知りたいことはもう分かりましたんで」
「けっこうじゃないでしょ!」
ヒステリックに叫んだのはタコラです。
「大事な思い出があるかもしれないじゃない? どうしてそんな簡単に捨てられるのよ?」
自分のことのように怒って睨むタコラに、ミーシャはなんだか嬉しそうな目を向けて言いました。
「映画だって観たことをすっかり忘れていたら、また初めて観たみたいに楽しむことが出来るじゃねえか? 実を言うとな、オレは記憶を失っていたこの1年、毎日が冒険しているみたいに浮き浮きしていたのさ」
タコラは呆れ返り、クスッと笑いをもらしました。サンターズ支部長も、
「本当にいいのか?」
と念を押しましたが、
「機械に掛けられたら思い出したら拙いことも全部思い出すんだろう? またあんたの気が変わったらたいへんだ。ま、必要なことはぼちぼち自然と思い出していくだろう」
サンターズ支部長はまた『こいつ、本当はもう全部記憶が戻っているんじゃないか?』と怪しみましたが、ミーシャはとぼけて、支部長もあえて薮をつつく真似はしないことにしました。
「君がそう言うならいいだろう。サンタの国日本支部には帰れるようにわしが手を回しておこう……まあ、日本支部ならどうとでも話をつけられるだろう」
「それはどうも。そんじゃま、折りを見て里帰りさせてもらいますよ。ありがとうございます」
ミーシャ……三太郎に礼を言われて、サンターズ支部長は実にむずがゆいような顔をしました。
さて、そのサンターズ支部長にも本部の評議会から裁判の呼び出しがあるはずですが…………
「あっ、あなたは!?」
クリーン氏が驚いたのは、オモチャ売り場の中から現れたのは、名優として名高いティム・サンクス氏でした。
「ミスター・サンクス!」
タコラも目を丸くして歓声を上げました。
「僕はオモチャ売り場が大好きでねえ、つい遊びたい誘惑に駆られて困ってしまったよ。
やあ、こんばんは、ミス・ファミング。ジュディーでなくてごめんよ」
「いいえ。お会いできて光栄です」
タコラはサンタクロースに会えたのと同じくらい感激して頬を赤くしました。
サンクス氏はサンターズ支部長に軽く挨拶して言いました。
「あなたの扱いについて、評議会には僕から口をきこう。……明日のサンタクロースの仕事ぶりによってだけれどね」
サンクス氏はチャーミングにウインクして、
「僕もサンターズ・サンタの大ファンだったからね、またサンタクロースのあなたにお会いできて光栄ですよ」
と、握手を求めました。氏は更に、タコラを見て、
「ねえ支部長。彼女には我々のメンバーに入る資格があるんじゃないかなあ? 今度本部に用がある時は彼女も連れて行って、グランドサンタに紹介したらどうかな?」
「グランドサンタって?」
タコラの問いにニッコリ笑って言いました。
「一番最初の、正真正銘、本物のサンタクロースさ」
タコラは歓声を上げて飛び跳ねました。
深夜12時、世界中の空に魔法のオーロラが広がっていきます。
北極のサンタの国の鐘から発せられる、大人をサンタクロースに変身させる魔法のオーロラです。
夢見る子どもたちの枕元にそっとプレゼントを置くのは、本当に、サンタクロースかもしれませんよ?
おわり