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1、消えたサンタ事件

<前回までの「黒サンタ」>


黒岩三太郎は日本の黒いサンタクロース=悪い子専門のサンタクロースである。

自分も悪い子の三太郎はこれまで数々の大騒動を引き起こし、ついにサンタの国の刑務所に入れられてしまう。

まんまと脱獄した三太郎は、性懲りもなく派手に暴れ回り、サンタの国の極秘事項=サンタの国アメリカ支部長の正体を暴いてしまう。

クリスマス後、支部長の逆鱗に触れた三太郎は、特殊部隊の襲撃を受け、アメリカへ拉致されてしまうのだった。




2014年12月


 テレビで次のようなリポートがされていました。


『クリスマス前最後の週末、きらびやかにデコレーションされた街は買い物客でにぎわっていますが、ここロマンテラス市ではおかしな現象が起きています』


 ロマンテラス市はご存知映画の都フィグウッドや、リッチなセレブリティーの高級住宅街リッチービルズで有名なアメリカ西海岸の大都市です。


『クリスマスには付き物の、あの、人気者の姿がどこにも見当たらないのです!

 ご覧下さい』


 マイクを持った女性リポーターは街の広場の金銀のモールで飾り立てられた大きなクリスマスツリーの前に立ってリポートしています。


『今日ここには毎年恒例のその人気者がやって来て、子どもたちと記念写真を撮ったり、ソリに乗せてくれたりしているはずだったのですが、昨日になって急にキャンセルされてしまいました。

 クリスマスにソリに乗ってやって来る人気者といえば……、そう、サンタクロースです!

 12月になってクリスマスが近づいてくるに連れて、何故か、このロマンテラスの街から、サンタクロースの姿がすっかり消えてしまったのです!

 街の大きなイベントにやってくるオフィシャルなサンタクロースばかりでなく、おもちゃ屋さん、ケーキ屋さんのサンタの姿をした店員から、通りの看板を掲げた客引きのサンタまで、どんどんいなくなっていってしまって、とうとうすっかりいなくなってしまったのです!

 これはいったいどういうミステリーなのでしょう?

 サンタたちの労働条件改善を求めるストライキでしょうか?

 それとも反サンタクロースを掲げる宗教団体による大量誘拐事件でしょうか?

 現在のところどこからもサンタ誘拐の犯行声明は出されておらず、消えたサンタクロースたちの行方は分かっていません。

 ロマンテラスの街はこのままサンタクロースのいない寂しいクリスマスを迎えることになるのでしょうか?

 子どもたちの為にサンタクロースがあのご機嫌な笑顔を見せてくれることが待たれます。

 ホッホッホッホッホー。

 ロマンテラスよりサンデー・カトーがお送りしました』



 そのロマンテレスの街を1台の車がほどほどのスピードでぐるぐる走り回っていました。

 運転しているのは高級ホテルのドアマンみたいなちょっと笑えるコートを着た紳士ですが、何を捜しているのか横っちょを見てばかりで危なっかしいったらありません。

 しかしよほど切羽詰まっているようで、真剣なまなざしで、悲壮な表情をしています。

 紳士が『おっ』という顔をして車を止めました。急に止まったので後ろの車が怒ったクラクションを鳴らして追い越していきましたが、紳士はまるで耳に入っていないようです。

 紳士は歩道の方をじっと見つめています。

 そこには一人の男が、この寒空の下、薄い、薄汚れた灰色のコートを着て、道ばたの空き缶を長い火ばさみでひょいとつまみ上げて背中にしょっているバスケットに器用に投げ込みながら歩いています。

 顔の下半分を真っ黒なひげで覆った、大きな男です。

 男を値踏みするように眺めていた車の紳士は、まるで岩を削ったような男の険しすぎる顔立ちを見て残念そうに考え込みましたが、いやいや今は贅沢を言っていられる時ではないと決心し、ドアを開きました。

「こんにちは。おーい、こんにちは、旦那さん。そうそう、あなた」

 呼びかけられて振り返った男は石炭のような黒い瞳で紳士を眺めました。

「なんの用だ、ご立派な旦那さん?」

 皮肉っぽいですが意外とユーモアのセンスもあるようで、紳士はほっとリラックスして話しました。

「アルバイトをお願いしたいんです。失礼ですが、今なさっているお仕事よりはかなりよいお給料を支払えますよ?」

「フム」

 男は考えました。空き缶拾いは街の美化の為ではなく、くず鉄屋に買ってもらう為にしているのです。

「何をすればいいんだ?」

「サンタクロースになっていただきたいのです!」

「サンタクロース?」

 男はまるで毛虫が背中に落っこちたみたいな、世にも嫌あ~~な顔をしました。

「あんた、わざわざ世界で最もサンタクロースが似合わない男を選んでるんじゃないか?」

「そんなことはない! あなたはなかなかサンタクロースらしい堂々としたたたずまいをしてらっしゃる!」

 紳士は一生懸命にこやかに言いましたが、男の黒い瞳にじいっと見られて、はあー……、とため息をつきました。

「いや、まあ、有り体に言えば、サンタクロースのなり手がいなくてほとほと困っているんです。もうこの際、多少のミスマッチは目をつぶろうかと……」

 男はニヤッと面白そうに笑いました。

「ああ、あれか、テレビでやってたサンタクロースがいなくなってしまうってやつか?」

「そうなんです。うちでももう5人もわざわざオーディションで選んだサンタクロースが消えてしまいまして。従業員に代わりをさせようとしても、みんな怖がってしまって。ああ、わたし、『メリーズ』でキッズフロアのマネージャーをしているクリーンと言います」

 メリーズはすごく大きな老舗デパートです。

「うちはキッズフロアに立派なサンタクロースがいていつでも子どもたちの相手をするのが伝統になっているんです。ですから一刻も早くサンタクロースのいない状態を解消しなくてはならないんです! どうかお願いです、サンタクロース役を引き受けてください!」

「さあて、どうしたもんかなあ」

 男は腕を組んで苦い顔で天を睨むようにしました。

「ギャラは弾ましてもらうから」

 クリーン氏は拝むように頼みました。男はそれでも、う~~ん……、と迷いました。

「すごくありがたい話ではあるんだが……、俺はどうやらサンタクロースという奴が大嫌いなようだ」

「おお、なんと」

 クリーン氏はひどく哀れむように男を見ました。

「サンタクロースが大嫌いだなんて、きっと子どもの頃から苦労してきたんでしょうねえ」

「さあーて、どうだったのかねえ?」

 男は肩を揺するとまたニヤリと面白そうに笑いました。

「なにしろ俺はどうやら記憶喪失ってやつらしくて、子どもの頃はおろか、自分がどこの誰なのか、まったく分からねえのさ」

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