探索
次の日、進は学校に来なかった。学校が終わると俊介達は進の家に行ったがやはり家にも帰っては居なかった。進の母親は瞼を腫らし憔悴していた。
俊介達は一度自転車を取りに家に帰って学校のグラウンド裏に集まる事にした。
俊介が着いた時に健斗は野球部の部員達と何やら揉めていた。孝太郎も到着した事に気が付くと健斗は二人の所に戻ってきた。
「良いのか?」
「あぁ良いんだ。ちょっと部活休む事言ってなかっただけだ」
三人は自転車をこぎ出し出発した。俊介が振り返ると野球部は練習を再開していた。俊介にはそれが遠い世界で行われているものに見えた。
みどりさんの家に着くと俊介達は驚いた。家が真っ白に塗られている。触ってみるとサラサラしていた。窓から中を覗いて見るが誰も居ない。健斗が扉をノックすると扉が開き、みどりさんが顔を出した。
「あら、また来てくれたの? 嬉しいわ。さぁどうぞ」
みどりさんは一歩下がって俊介達が中に入れるスペースを開ける。
「進、ここに来てるでしょ?」健斗は入らずに中を覗き込む。
「いつも来てくれる子ね。御免なさい。あれからは一度も来ていないわ」
「まさか? 来てるでしょ?」
「いいえ、来てないわ。……何かあったの?」
俊介達は顔を見合わす。
「……昨日から家に帰って居ないんです」二人の代わりに孝太郎が答える。
「そうなの……。もし私の所に来たらみんなが心配してるって伝えておくわ。他の所は探したの?」
「もう他のとこは探しました! 本当に来てないんですか?」健斗は声を荒げる。
「力になれなくてゴメンなさい。本当に来てないのよ」
「そんな……。じゃあ、あいつはどこ行ったんだよ?」
その質問には誰も答えられない。
「もし良ければ家で少し待ってみる?」
みどりさんは俊介達を促すが三人は中に入らなかった。
「今日は良いです。……また来ます。さぁ行こう」
孝太郎は二人を促して来た道を引き返していく。孝太郎は何度か振り返り、みどりさんの家が見えなくなった所で立ち止まった。
「本当に来てないと思うか?」孝太郎の問いに俊介は首を傾げた。
「どうだろう。他のとこはもう探したんだろ?」
「全部探したよ! 来るとしたらここしかないって」
俊介自身、確信は無いが健斗の言ってる事は間違いないだろう。
「じゃあみどりさんが嘘ついてるのか」
「最近の進の様子なら来ててもおかしくないだろうな」孝太郎も俊介と同じ意見の様だ。
三人で考え込んでいると孝太郎が口を開いた。
「……ここに来てるなら絶対自転車で来てると思う。だから進の自転車が無いか調べてみよう」
「そうだよ。今日も進の家には確かに自転車が無かった」健斗の言うとおりだ。俊介の記憶にも進の家で自転車は無かったはずだ。
一旦三人はスキー場の駐車場まで戻って探してみたが進の自転車は見当たらなかった。
「もしみどりさんが嘘をついてるなら進の自転車を隠してるかも」
孝太郎の一言に三人は森を振り返る。陽はほとんど沈みかけ、辺りは薄暗い。森は一段と大きく、何より人の侵入を拒んでいるかのように見えた。
「よし、みどりさんに見つからないように探そうぜ」健斗は森の中へと入って行く。俊介達も意を決してついて行く。
は自転車や進の手がかりが無いか探しながら慎重に森の中を進んでいく。そして何も見つからないままとうとうみどりさんの家まで戻ってきた。
「家の裏も探そうぜ」
健斗を先頭にみどりさんの家から一定距離を保ちながら一周する様に進んで行く。外から見るとみどりさんの家はとても小さく見える。だがそれ以外は何の変哲もない。
家の正面まで戻ってくると三人は木陰から様子を伺った。家は暗いまま、何の気配もない。
「……やっぱ中も調べようぜ」
健斗は辺りを見回しながら窓の所まで進む。俊介達もそれに続く。リビングには誰も居ない。健斗はそのままドアの所まで行きそっとドアノブを回した。
「見つかったらマズイって」
「シッ! 黙ってろ。このまま帰れるか」
健斗がドアを押すと音もなく開いた。健斗は中に滑り込み俊介達も辺りを見回しながら健斗に続いた。扉を閉める時も俊介はどこかでみどりさんが見ていないか心配だった。
外から見た通り家の中は静かで何の気配もない。俊介達はリビングの奥へと進む。そこはリビングの半分位の広さしかなく、薄汚れていて物が雑多と並んでいた。
有るのは農具や工具ばかり。スープを作るガス台もクッキーを作るオーブンもない。そこで行き止まりだった。