再訪
翌日、進はちゃんと学校に来た。休みにみんなでみどりさんの所へ行く事を進と健斗は了承した。
それからは何事も無く過ぎていく。孝太郎は真面目にノートをとっているし健斗は寝てる。進はボンヤリと外ばかり眺めている。
俊介は進が明日来ないのではないか、放課後に一人で居なくならないかと心配していた。だがそんな事はなかった。
休日になると俊介達はまた山へ向かう。山の中は相変わらず薄暗かった。みどりさんの家を改めて見ると何か以前と違う様に感じた。
最初に見た時は本当に人が住んでるようには見えなかった。だが今目の前にあるのはちょっとみすぼらしい小屋だ。人が住んで居ても不思議ではない。そんな風に見えるのは俊介がそこにみどりさんが住んでいるのを知っているからだろうか。
「みどりさん。遊びに来ました」進はドアをノックした。暫くすると中からみどりさんが顔を出した。
「あら、いらっしゃい。今日は皆で来てくれたのね。嬉しいわ」
みどりさんが半歩下がると進は中に入った。俊介達もそれに続く。みどりさんの隣を通った時、何かの香りがした。甘い匂い。香水の匂いと言うよりも料理の匂いなのかも。以前来た時はこんな匂いさせていなかった。
「さぁ、丁度クッキーが焼けたところよ」
みどりさんはお皿一杯にクッキーを入れて奥から現れた。進は早速クッキーに手を伸ばす。健斗も一口かじる。
「んまい」
「ふふっ、ありがとう」
俊介と孝太郎は食べるのを躊躇していた。
「君達も良かったらどうぞ」
みどりさんは二人に皿を差し出す。俊介と孝太郎は顔を見合わせた。
「でも悪いですよ。みどりさんが食べようと作ってたんですよね?」孝太郎は遠慮がちに言った。
「もちろん私も一緒に戴くわ。それにまた作れば良いんだから気にしないで」
そう言うとみどりさんはクッキーを一つつまんで食べた。これ以上断る理由はない。俊介達も渋々クッキーをかじる。確かに美味しい。でもみどりさんからしていた匂いはクッキーの匂いではなかった。
四人は皿を空にするとみどりさんはもう一皿持ってくる。焼いたばかりの様でまだ温かい。それを食べながら色々話をした。
ほとんどが俊介達の学校の話でみどりさんは自分の話しはしたがらなかった。時間はあっという間に過ぎ、窓の外も中も一段と暗くなってきた。
「そろそろ帰るか。晩飯に遅れちまう」
「もうこんな時間。残念ね……。ぜひ今度は夕食も一緒だと嬉しいわ」
四人が見えなくなるまでみどりさんは小屋の前で手を振っていた。
「進の言ってた通り本当にクッキー旨かったな」
「だろ? また今度行こうぜ」健斗と進は笑って話している。
「でもこんな山ん中まで来るの大変じゃね?」
「何ジジィ臭え事言ってんだ。良い運動なって良いじゃん。進も痩せるかもよ」
「俺は今の体型で満足してんの!」
「あんだけお菓子食いまくれば意味ねえか」
「お前だってバカみたいに食ってたじゃん」
「俺はお前と違って太らないも~ん」
笑う健斗を追いかけて進は坂を猛スピードでかけ降りていった。俊介と孝太郎はそれを眺めながらゆっくり降りていく。
「何かジュースでも買ってくれば良かったな」
「確かに。クッキー食べ過ぎたかな? やけに喉が渇いたよ」
「でも何で進はあんな所まで通うんだろ。やっぱりお菓子目当てか?」
「でも進の家ならお菓子に困らないだろ?」
「あいつんち行ったらいつもお菓子出てくるもんな」
「改めて思ったけど……みどりさんって普通だよな」
「そうだな、別に変な感じではなかったな」
結局それ以外の結論は出なかった。道の先では健斗達が二人に早く来いと手を振っている。俊介達はそれ以上考えるのを止めて健斗達のところまで競争した。