天網山
四人は次の日、駄菓子屋に寄ってお菓子を買い込んだ。リュックを背負い、自転車で山を登る。
まずは冬しか営業していないスキー場に向かった。行きはずっと上りっぱなし。四人は持久力の無い進の為に何度も途中で休憩した。
スキー場の駐車場に着くとやはり車は一台も停まっていない。営業していないのだから当然だろう。その駐車場の隅に自転車を停めて山の中へ入っていく。膝まである草を踏み分けて四人はドンドン奥まで進んで行く。
「なあ、帰る時に道分かんなくなるんじゃないか?」
進は心配そうに振り返る。他の三人も振り返った。木々の隙間から辛うじて駐車場に停めた自転車が見える。
「真っ直ぐ行って帰ってくれば大丈夫だろ」健斗は前と後ろを交互に指さす。
「念の為目印つけておくか」孝太郎は近くの木を撫でながら言う。
「どうやってつける?」進はまだフゥフゥ言っている。
「駄菓子屋で貰った袋を木に縛っておこう」俊介は駄菓子屋で買ってきた駄菓子を袋から取り出す。それを見て健斗達も袋を空にする。
「でもお菓子はどうする?」手の中いっぱいの駄菓子を見て進が言った。
「そんなもんポケットに突っ込んどけよ」健斗はポケット一杯に駄菓子を詰め込んだ。
「それじゃあ、俺リュックに入れとくわ」進はリュックを下すとその中に駄菓子を詰め込み始める。
俊介は空いた袋を枝に縛り付ける。その目印が見えなくなる前に一つ、また見えなくなる前に一つと四つの袋を結び付けていった。
「どうする? もう袋無いぞ」遠く後方にある袋を見ながら言う。
「ちょっと待った」俊介はリュックの中から包みを取り出す。中には親に作って貰ったおにぎりが入っている。
「もう飯食うのかよ」
「違うよ。このハンカチを縛っとくんだよ」
「でもそれ無くしたら怒られるんじゃね?」進は心配そうだ。
「帰りに外して持って帰れば良いんだよ」
「そうか! お前頭良いな」それぞれ自分のリュックをまさぐりハンカチを取り出して四人は更に進んで行く。木々は深くなり、まだお昼なのに辺りは薄暗くなってきた。
「おい、あれ見ろよ」健斗が指差した先、木の陰に小屋らしき物が見える。物置の様だがそれにしては大きい。
「こんな所に誰か住んでんのかよ」進は驚きの声を上げた。
「まさか、こんな山奥には住めねえだろ。……ちょっと調べてみるか」健斗は小屋に向かって歩き出す。
「やめようぜ。変な奴が居るかもしれないじゃん」
「お前、怖いのか? だったらここで待ってろよ」健斗に言われて進はムッとした。
「怖かねぇよ」
「無理すんなよ」
「無理してねぇし」
二人は言い争いながらドンドン小屋へ向かっていく。俊介と孝太郎もついて行くが健斗と進はもう走り出していた。
俊介達が着く頃にはもう二人は窓にへばり付き中を覗いていた。
「おい、来てみろよ。やっぱり誰か住んでるみたいだぞ」
健斗と進は窓から離れて二人が覗けるようにした。中にはテーブルと椅子が一つずつあり、テーブルの上にはスープが入った皿が乗っていた。皿の隣にはスプーンとフォークも綺麗に並んでいる。
「マジで誰か住んでんじゃん」俊介は驚きの声を上げた。
「しかも飯の準備もしてあるぞ」孝太郎は他の三人を見回す。
一旦俊介は窓の下に隠れる。他の三人もそれにならった。
「おい、どうする?」健斗はニヤリと笑った。
「どうするって何が」俊介は健斗の笑いに嫌な予感がした。
「こんな所に住んでるなんておかしいって。なぁ、どんな奴住んでるのか見てみようぜ」
四人はまた中を覗いてみた。先程と全く変わった様子はない。何か他に見えないか中を見回していると後ろから声が聞こえた。
「あら、お客さんなんて珍しい」
四人は驚いて振り向くとそこには一人の女性が立っていた。白いワンピースを身にまとい、腰まで伸びる髪は艶やかに輝いている。
女性は何も持たず散歩から帰って来たような軽装で都会的な魅力を持っていた。周りの風景に全く溶け込んでおらず、こんな山の中では明らかに浮いている。