その後
俊介は立ち上がって床扉を閉めた。
「……これで全て終わったな」健斗は立ち上がる。
「あぁ、お仕舞いだな」
「ホント、死ぬかと思った」孝太郎の言葉にはやけに感慨が込められていた。
三人は笑って物置から出ようとすると俊介は扉にぶつかった。二人もその違和感に気付いた。扉はリビングに付いていたハズなのに、今は物置に扉が付いている。自分の記憶違いだろうか。そう思いながら俊介は扉を開ける。扉の向こうはもう外だった。
俊介は部屋の中をもう一度見る。そこはやはり来る時に見た物置部屋そのものだ。リビングは消え、扉の目の前まで腰より高い草が生い茂っている。
そんなハズはない。ここまで背の高い草が生えていれば絶対に気付くはずだ。
俊介達は戸惑いながらも外に出る。建物を振り返ると初めてこの小屋を見た時よりももっとみすぼらしく小さかった。
本当に元の場所に戻ってきたのかと不安がよぎる。でもボロ過ぎる物置と周りの草をぬかせば何となく見覚えがある気もする。
三人は歩き始める。
筋が浮いた細長い葉が、肌をチクチク刺激する。
少し進むと木の枝にビニール袋が縛り付けてあるのを見つけた。見覚えのある駄菓子屋の袋。
やはり元の場所に戻ってきていたんだ。全てみどりさんが見せていた幻だったんだ。俺達は本当にやり遂げたんだと三人の胸に改めて実感がわいてきた。
次の日、健斗は学校を休むんじゃないかと思ったが三人とも何事も無かったように登校し、授業を受ける。
ただ進が学校に来る事はなかった。健斗の話では長期間の入院が必要らしい。健斗はお見舞いに行きたいと申し出たが頑として断られ、入院している病院の名前も教えて貰えなかった。
腕の傷は酷かったけどそれ以外は特に問題なさそうだった。それなのに入院ってどこが悪いのだろうか。面会出来ないほど酷いのか? ふと、みどりさんが言っていた事を思い出す。
一度食べればほっぺた落ちて、二度食べれば虜になるし、三度食べれば……もう逃げられない。
進はみどりさんの料理を何度食べたのか。それに進を見付けた時も口の中から蜘蛛の糸が沢山出てきた。進は体の傷以外の所に問題があるのかも。
蜘蛛の糸に何か依存性のある成分が含まれていたのではないか。確かに進を連れて帰ったあの時、進が腕の傷を痛がるそぶりはなかった。麻酔、もしくは麻薬に近いような成分が……。
実際のところどうだったのか、その後も俊介は解らないままだ。
三人は中学を卒業するとバラバラになった。孝太郎は進学校へ、健斗は野球の強い学校へ、俊介は家の近くの高校へ進む事になった。
あれから一度も進の事を話す事はなかった。三人ともその話題は避けていたし、進の事で警察が来ても決して話す事はなかった。
進には悪いと思うが俊介達は早く忘れたかった。みどりさん討伐の帰り道、俊介達は自分が勇者の様に感じていた。だがそんな気持ちはあっという間に消えていく。残るのは化け物を殺した記憶だけ。
髪を焼き、肉を裂き、頭をかち割ったその記憶だけが残った。そんな記憶なんて要らない、思い出したくもない。でもそれが無理だと気付くのにそれ程時間はかからなかった。
あれから十年以上たった今でも俊介はあの夏の厄災について誰かに話した事は無かった。それでも未だに思い出す。
あの洞窟の埃や何かが腐ったような甘い臭い、蜘蛛の巣のサラサラとした手触り、肉を切り裂いた感触、飛び散る血の臭い、何かが砕けるような音。
今みたいに蜘蛛を見たりするとそれは蘇ってくる。まるで昨日の出来事の様に。
……だから俊介は蜘蛛と白いワンピースは嫌いだ。
小さな蜘蛛の、小さなみどりさんが俊介に向かって微笑んでいる。突然襲ってくる白昼夢に俊介は目を閉じてじっと耐える。彼に出来るのそれだけだ。
小屋の周りに生えていたあの草。アレが大麻草であることを俊介は結局知ることはなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
他の作品とはまた一味変わった感じにしようと頑張ってみました。
至らない点も多いかと思いますが楽しんで頂けたなら幸いです。




