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開戦

 健斗が先頭に立ち、その後ろから俊介が懐中電灯で先を照す。一番後ろに孝太郎、モップにはまだ火を点けていない。


 暫く進むと穴の奥に小さな明かりが見えた。三人は横穴にも注意しながら明かりに向かって進む。


 とうとう明かりの点いた穴に辿り着いた。そこは通路の一番奥、最終点。慎重に中を覗くと中は他の穴とは比べ物にならない位に広かった。学校の体育館位だろうか。壁には幾つもの蝋燭が灯っており、床には大きな蜘蛛の巣が張り巡らされていた。


「コソコソしてないで出てきなさい」


 巣の中心にみどりさんが立っていた。三人は意を決して中に入る。俊介達が手に武器を持っているのを見てみどりさんは笑った。


「待ちわびてたわ。……準備万端のようね。それじゃあどうする? お菓子でも食べながらお喋りする?」

「進に何をしたんだ」健斗はみどりさんにスコップを向ける。みどりさんはクスリと笑った。

「ちょっと味見しただけよ。彼が居てくれれば食事に花が咲いたのに、本当に残念。……でもみんな来てくれて良かった! これで食事が楽しくなるもの」


 みどりさんは両手を合わせて喜んだ。俊介はその目にぞっとする程冷たいものを感じた。何も言えず、ただ逃げ出さないようにするのが精一杯だった。俊介だけじゃない。他の二人だって恐怖と戦っていた。


「……どうしたの? 遊びに来たんでしょう? 色々持ってきて、踊ってくれるの? やっぱりお食事が良いかしら?」


 みどりさんは片手を差し出すと袖から蜘蛛の糸が伸びて掌に集まり始めた。


 糸は徐々に形を成し、色が変わり始める。あっという間にみどりさんの掌に一枚のステーキが現れた。木と鉄で作られた皿の上でステーキはジュウジュウと音をたて始める。


「一度食べればほっぺた落ちて、二度も食べれば虜になるし、三度食べれば……もう逃げられない」みどりさんは三人に近づいてくる。


「今頃、進君は苦しんでるんじゃないかしら。私の手料理が食べたい、食べたいようって」

「やめろーーー!」


 健斗はステーキをスコップで払い飛ばした。


「最近の子はステーキじゃ喜んでくれないのね」みどりさんはため息をついた。


 健斗は絶叫しながらみどりさんの頭を目がけてスコップを振り回した。みどりさんはひらりと飛び退いてかわした。


「あら、やっぱり踊りたいのね。良いわ、一緒に踊ってあげる」


 みどりさんの下半身はみるみる膨れ上がり、脚が生えてくる。目は瞬きする度に増え、全部で八つになる。口の両端には牙が伸びてくるが上半身だけは人のままだった。


 三人はみどりさんの変貌ぶりに後退る。そんな三人を八つの目で捉えるとみどりさんはどんどん近付いてくる。


 健斗はもう一度スコップを降り下ろす。みどりさんはそれをかわして健斗を蹴り飛ばした。

 スコップを落とした健斗はみどりさんに四つの脚で押さえ付けられる。みどりさんの脚の爪が背中や肩に食い込み、健斗は呻き声をあげる。


「そんなステップじゃ全然ダメ。もっと軽やかにしなきゃ」


 みどりさんは四つの脚でリズムをとるように健斗を踏みつける。背中だけではなく腕や足に傷を作りながらも健斗は必死に頭と首を守った。


 健斗の悲鳴でやっと俊介と孝太郎は我に返った。俊介はみどりさんの方へ向かい、孝太郎はポケットからライターを取り出しモップに火を点ける。


 みどりさんの八つの目が俊介をとらえると健斗を更に蹴り飛ばし俊介に向き直る。


「今度はあなたが踊る番ね。さぁ、どんな躍りを見せてくれるの?」


 俊介は近付くみどりさんに向かって鎌を振り回す。それをみどりさんは難なくかわして見せる。孝太郎はその様子を見ながら健斗を助け起こす。


「大丈夫か?」

「めちゃくちゃ痛ぇけど、何とか」

「一旦通路まで逃げよう。ここじゃ広過ぎるし、あいつはすばしっこ過ぎる」

「……分かった」


 健斗は立ち上がると痛みで涙が出てくる。涙を拭い、何とかスコップを拾う。


「先に行ってて。俊介を連れてくから」


 孝太郎の言葉に健斗は頷くとヨロヨロ歩き出した。俊介はまだみどりさん相手に奮闘しているが鎌はカスリもしていなかった。孝太郎は火の点いたモップを振りかざして二人の間に入る。


「一旦、引こう。健斗も先に行ってるから」


 俊介がチラリと見ると健斗はもうすぐ穴の入口にたどり着きそうだった。孝太郎はモップを振り回し俊介の腕を引く。俊介と孝太郎は走った。


 孝太郎は時折みどりさんに向かってモップを振り回し牽制する。みどりさんはそんな孝太郎に余裕の笑みを見せていた。

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