決意
それでも次の日にになれば学校は始まる。俊介は登校途中に孝太郎と会った。覇気の無い挨拶をした後、二人は黙って歩き続けた。目を合わさず、前だけを見て。
授業が始まっても進の席は空いたままだった。健斗は黒板をボンヤリ眺めている。いつもの事だから俊介は気にしない。流石に孝太郎も今日は授業に集中出来ないようだ。今度のテストで孝太郎に勉強を教えて貰えるだろうか。俊介の頭の中にふと、そんな考えが浮かんだ。
昼休みになり俊介達は机を合わせて三人で給食を食べた。一人居ないだけなのにこの喪失感はなんだろう。他のグループとは違い、俊介達の所は誰も喋ろうとしなかった。
目の前の器が空になると俊介は健斗を見た。いつも食うのが早い健斗だがまだもそもそ食っていた。俊介は思いきって切り出してみる。
「朝、進の家へ寄ってきたか?」
健斗はゆっくり租借し続けている。孝太郎はそれをじっと見守った。俊介はもう一度聞き直そうかと口を開きかけた。
「良くないらしい。暫く学校も来れないんだってよ」健斗はやっとそれだけ言い、給食の残りを見つめた。
皆、給食を食べ終わり、そのまま喋ったり、校庭へ遊びに行ったりし始める。俊介が給食の食器を片付ようと立ち上がろうとした時、健斗は俊介の腕を掴んだ。
「あいつに止めをさそう」
俊介にはその時健斗の目がギラリと光ったように見えた。俊介は健斗が何を考えているか分からなかった。ただ最後まで、健斗の気が済むまで付き合おうと思った。その結果どうなろうとも……。
俊介達は放課後三人で山を登る事になった。この道を進むのもこれで何度目だろうか。健斗を先頭に黙々と自転車をこぐ。俊介はこの道を登るのはこれで最後にしようと心に誓った。
スキー場の駐車場には今日も車一台、人っ子一人居ない。三人は自転車を停め、駐車場の端に立って森を眺める。
駐車場と森の間に彼等を遮るものはない。ただそこでアスファルトが終わっているだけ。足を出せば簡単に踏み入る事が出来る。俊介はその境界をじっと見詰める。
健斗がとうとうその境界を踏み越える。その後ろに俊介、更にその後ろに孝太郎が続く。
健斗が固く拳を握って関節が白くなっているのが見える。そこで俊介も自分が健斗と同じように拳を握っているのに気が付いた。その上、汗でベットリしている。
俊介は掌の汗をズボンで拭い一息つく。落ち着け、後で嫌でも汗をかく事になるんだ。
白い家が見えてくる。そこだけ周りの景色に似つかわしくない。初めてみどりさんを見た時の感じに似ている。
俊介は窓から中を覗くと以前と全く変わらないリビングが見える。何気に触れた壁の感触に俊介は手を引っ込める。
サラサラとした感触があの地下で見付けた繭を彷彿させたからだ。孝太郎と健斗が何かあったのかと俊介の方を見る。俊介は問題無いと頷いて見せた。
健斗がドアを開ける。三人は中に入ると俊介はそっと後ろ手でドアを閉めた。三人は奥の物置部屋を見て立ちすくんだ。
物置部屋は綺麗に片付けられていた。俊介は急いで辺りを見渡す。リビングにも窓の外にも人影はない。
俊介達は物置部屋の床は塞がれたままでいるとばかり思っていた。それが片付けられていると言う事は恐らくアイツが片付けたに違いない。三人はあまりにも無警戒にここまで来てしまった。
森の中に誰か居ただろうか? 家の陰からこちらを見ている者は居ただろうか? 誰も自信は無い。三人は暫く息を飲んで様子を見ていたが何の気配もない。
健斗がそっと床に手を伸ばす。二人にアイコンタクトをとってそっと持ち上げる。三人は少し中を覗くとまた閉じた。
「何か見えたか?」
「……分からない。真っ暗で何も見えなかった。どうする? 何か作戦は?」俊介は尋ねた。
「俺がか? 何にも考えてないよ」健斗は肩をすくめて見せる。
「とりあえず何か使える物が無いか探してみよう」孝太郎に言われて二人は周りを見渡した。確かに使えそうな物がいくつかあった。
俊介は鎌と懐中電灯、健斗はスコップ。孝太郎はモップの先端にボロ雑巾を結んでいた。更に孝太郎は古ぼけた缶を開ける。部屋中にペンキや油性マジックの様な臭いが充満した。
「何だよ、それ」鼻をつまむ健斗を横目に孝太郎は缶の中身をモップにかける。
「シンナーだ。これ燃えるんだよ」シンナーの缶を片付けると孝太郎は置いてあったライターを尻ポケットにしまう。
それぞれ武器は手に入れた。後はやるだけ。再び床扉を開いて三人は地下へと潜っていった。




