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君と、初めての話。

携帯のアラームが鳴る、朝五時。

僕はいそいそと支度を始める。

いつもならなにも気に留めない髪型も、ネットで調べた通りにセットする。

ファッションはよくわからないから、いい感じのお店で店員のイケてるお兄さんに教えてもらった服を身にまとう。

慣れない革靴の先を少し磨いて颯爽と外に出る。

夏の香りの晴天も、僕を応援してくれている。


ああ、いよいよだ。


講義が始まった。

教授の小難しい話が耳を通り抜ける。

君は前から三列目の真ん中の方に座り、真剣な顔で講義を聞いている。

最後列の一番窓際に座っている僕からはその美しい横顔がよく見える。

今日はめがねをしている。少し目が悪いのかな。

僕はまっさらなノートに時折目線を落としながら君を見続けた。

すると、ひとつの疑問が浮かんできた。


人気者のはずの君の両隣には誰もいないじゃないか。

どうしてだろう?

講義に集中したいからあえて一人になっているのかもしれない。

華やかであるけれどどこか真面目な感じのする君のことだからあり得るな。

はたまた、専門的でしかも朝早いから、友達はこの講義をとっていないのかもしれない。

・・・きっとそのどちらかだろう。

どちらにしても、僕にとっては好都合だ。僕は考えるのをやめた。


生徒たちが立ち上がり始め、教室が一気にうるさくなった。

講義が終わったようだ。

手にじんわりかいた汗をズボンで拭って、急いでノートをしまって君を追いかけた。


君は意外と歩くのがはやいんだね。僕は大股で歩く。

でも、どうしてそんなに速く歩くんだろう。

君は僕に気づかない様子で足早に図書室に入った。

こんな時間に図書館にいる人なんておらず、二人きりになった。

入口から見ていると、君は何やら重たそうに本を何冊もかかえ、一番端にちょこんと座った。


・・・今だ。行け・・・!!!


「あっあのっ!」

「・・・はい?」

「ぼ、僕、文学部一年生の伊藤優っていいます!」

「はあ・・・。」

「あの、えっと、」

「なんですか?」

「僕と、お友達になってください!!」


君はきょとんとした顔でこちらをみたと思うと急に笑い出した。


「ゆうくん?だっけ、面白いのね。」

「そんなに笑わなくても」

「だって、あたし生きてきて初めてそんなこと言われたんだもの!」

「ごめんなさい・・・。」

「いいのいいの!えっと、文学部の三年の原ゆみです。よろしくね?」

「っはい!!ゆみ先輩・・・でいいですか?」

「やだー、先輩なんて!特別にゆみちゃんでいいよ?」

「ゆみちゃん・・・」

「うんっ。ゆうくん、よろしくね!」


それから君と色々な話をした。夢のようだ。

君はそれじゃあ、と言ってノートの端っこをちぎってくれた。可愛いけど読みやすい字でメールアドレスが書いてあった。


「あたし、まだガラケーなの。だから暇なときにでも。」

「あっありがとうございます!絶対連絡します!!」

「そんなに気にしないでね。それじゃ!」


君は子供のように大きく手を振ると、急ぎ足で去っていった。

僕は掌の中でくしゃくしゃにならないように、そっと大切なそれをポケットにしまった。

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