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日常

なろうコン応募用にエリュシオンを題材に書きました。実際にプレイしたわけではなく、設定等は把握し切れていない部分もあり、矛盾点などもあるかもしれませんが、その辺りはご容赦ください。

 奴らは天魔と呼ばれるが、実際のところ天使や悪魔の類であるかは定かではなかった。

 詳細に分析し、明確に分類しようとしないのは本質的に興味を持っていないという心理の現れである。結局のところ、どちらも人類にとっては敵であり、生きた人間から搾取するか、死んだ人間から搾取するかの違いでしかない。

 それは天魔に対抗する力を持ち、天魔を撃退する為に駆り出される俺達でも変わらない。所詮はただの敵。斬り殺す相手がどんな色の羽を背負っていても、こちらを対等と見なしていないことには変わりなかった。だから俺達は天魔に対して過度の興味を持つことはない。ただ奴らを如何に効率よく倒せるかだけが興味の対象だった。


 重い足音が近づいてくるのを感じて、壊れかけた建物の二階から広場を見下ろすと、ライオンのような格好をした魔物が見えた。サーバントと呼ばれる魔物である。天使が使役するという触れ込みだったが、その外見は醜悪で、神聖さなど微塵も感じない。

 サーバントはしきりに頭を周囲へと巡らせていた。先ほどまで自分が追っていた人間を探しているのである。サーバントは獲物を見失っていた。俺の口元に笑みが浮かぶ。奴はこちらの作戦に嵌まったのだ。戦いを始める前に想像していた光景が目の前に実現している。囮になった仲間は見事にその役目を果たし、敵を布陣の中に誘い込んだ。まだ死亡報告は届いていない。このままであれば被害を出すことなくサーバントを仕留められそうだ。

 サーバントが広場の中央に足を進めたのを見計らって、物陰から槍を持った男女が現れた。彼らは通路を塞ぎ、サーバントの退路を断つ。さらに建物の屋上からは銃やクロスボウを持った仲間が現れ、包囲が完成した。この間、誰も指示を飛ばしていない。事前に決めた作戦通りに全員が動いているのだ。

 サーバントが狼狽えている間に、攻撃が始まる。屋上から無数の発砲音が聞こえ始め、地面が爆ぜた。豪雨に打たれたように地面が煙る。サーバントは魔物らしく、尋常ならざる反応で身をよじったり、わずかな物陰に逃げ込んで銃弾を避けるが、多勢に無勢で避け切れず、徐々に傷が増えていく。

 サーバントが広場から逃げようと端の方へ近づくと、今度は槍の攻撃が襲いかかった。四足獣型の魔物は往々にして敵対する者の横合いから襲いかかろうとする。俺達はそれを見越して横隊を組んでいた。全員が壁か、あるいは仲間を横に置いている為、サーバントが回り込める隙はない。しばらく槍の間合いギリギリのところを走っていたサーバントは、敵陣の中で止まることも出来ず、銃弾の雨が降り注ぐ広場の中央へ戻ることを余儀なくされた。

 ただそれほどまで追い込まれてもサーバントはなかなか倒れなかった。猛攻撃によって着実に傷は増えているのだが、なかなか致命打を与えられずにいる。サーバントが予想以上にすばしっこいのである。事前に斥候に出て、魔物の力量を見極めた上で作戦を立てたつもりだったが、見誤ったのかもしれない。

 戦闘は長引くと良くない事が起きる。緊張状態は体力と思考力を簡単に疲弊させた。不安を感じている場合は尚更だ。それに戦闘が長引くという事は、不測の事態が発生する可能性も上がるという事である。今回の場合、敵の増援が駆けつけるという心配は無かったが、それでも人間は膠着した状態に陥ると焦れて、余計なことをしたくなる生き物である。緊張で思考力を低下させた人間は集団の連携に綻びを生み、その綻びを突かれて作戦が呆気なく瓦解することもある。どんなに完璧な作戦を立てたつもりでも、それを実行するのが人間である以上、疲弊は常に弱点だった。

 俺はこれまでの経験から、一秒、また一秒と時間が過ぎてゆくに従って、仲間たちが疲弊し、綻びが大きくなっていくのを肌で感じていた。そしてついに決定的な事が起きる。

『弾が切れそうだ!』

 耳にしていたインカムに銃部隊の通信が入る。屋上を見ると、至る所で弾倉を仲間と分け合っている様子が見える。個人が携帯できる弾薬というのは数に限りがある。しかも今回は持久戦を想定していなかった為、弾薬の携帯量はそれほど多くない。もし弾薬を補充しようと思えば数時間は包囲した状態を全体に強いる事になるし、一回の補充で間に合うかどうかも怪しい。あとは槍による突撃という手段も残されてはいたが、死人が出る事は覚悟しなければならない。

 戦闘を継続するか、あるいは撤退するか迷っていると、サーバントを包囲していた槍部隊にも問題が発生した。インカムの通信は指揮を執っている俺にしか聞こえないのだが、銃部隊の弾薬が切れかかっている事は、間接的に槍部隊にも伝わってしまった。先の見えない戦闘に銃部隊が弾薬を温存し始め、攻勢が弱まった事で、今なにが起きているか槍部隊が察する余地を作ってしまったのである。サーバントに致命打を加えられていない事実も、予想を確信に近づけた。

 槍の横隊から一人、突出してしまう者が出た。近くへ寄ってきたサーバントを中央に追い立てようと突きを繰り出して、そのまま体勢を崩してしまったのである。

 仲間が不調になっている場合、それを援護するのが連携というものである。相手が素早くて弾丸が当たりにくいのなら、的を絞れるように追い込むのが手っ取り早い。しかしながら相手にしているのは四足獣型の素早い魔物である。地形を利用せずに追い込めるほど俺達の足は速くないし、人間だけで取り囲むには人数が足りない。槍部隊に出来るのは壁になって退路を塞ぐ事だけだったが、焦りが思考力を鈍らせ、余計な行動を誘発し、結果として連携に綻びを生んでしまったのである。

「ヒロ! 早く戻れ!」

 インカムに向けて俺は叫んだ。その声に反応して、部隊から突出してしまったヒロは素早く立ち上がる。だが隊列の乱れを目敏く見つけたサーバントは、ヒロが隊列に戻るよりも早く突撃した。横にいた仲間たちが援護しようとしたが、あまりにも短い時間に起きた出来事で反応が間に合わず、対処が追いつかなかった。

 咄嗟に繰り出された援護の突きは、サーバントの肩に浅く刺さっただけに留まり、突進を食い止める効果は発揮できない。ヒロ自身も自分へと向かってくる魔物に対して突きを放ったが、あらぬ方向へと逸れてしまう粗末なものだった。

 ヒロは撥ね飛ばされ、包囲を抜けたサーバントは建物と建物の隙間へと逃げ込む。

「クドウ! そっちへ行ったぞ!」

 俺は建物の中を移動しながら合図を出した。クドウは万が一の事態を考えて待機させていたのだが、その事態が起こってしまった。もしかしたら最初から、作戦自体に無理があったのかもしれない。そんな不安を覚えながら建物の反対側へ回る。丁度サーバントが窓を突き破って飛び出すところだった。

 サーバントはそのまま逃げようとしたが、唯一の逃げ道にクドウが立ちはだかる。背後からは槍部隊が追ってきていた。サーバントは一瞬の躊躇を見せた後、クドウへと突進した。

 クドウは自分の身体を咬み千切ろうと迫ってくるサーバントの口に向けて腕を突き出す。そしてサーバントが噛みつこうとする直前、手に持っていたヒヒイロカネから身の丈ほどもある大きな盾を発現させる。盾はサーバントの中で展開され、鋭い牙を巻き込んで顎関節を固定した。

 クドウはサーバントの突進を受け止め、その勢いを殺す。そしてサーバントが首を振って暴れようとするのを、盾を地面に突き立てる事で阻止した。コンクリートの地面が容易に削れ、サーバントの力がどれほど強いものかを見せつける。それを抑えるクドウも相当なものだったが、本来は片手で扱うはずの盾を両手で扱っていた。剣を取り出して攻撃する余裕は流石にないらしい。

 しばらく拮抗していた二者の攻防はクドウの負けという形で終わった。サーバントが再び首を振ると、クドウは体勢を崩され、地面に触れていた盾が持ち上がる。だが戦いはそこまでだった。二階から飛び降りた俺がサーバントの首を斬りつけたのである。

 サーバントの首はクドウの盾にしっかりと噛みついたまま、胴体が力を失って横たわる。首の一部はまだ繋がったままだった。高所からの落下を利用しての攻撃だったが、当たり方によっては仕留め損なっていたかもしれない。

 ぞっとしている俺の肩にクドウが手を置いた。

「おつかれ」

 彼の穏やかな声が、戦いが終わったことを告げている。後からやってきた仲間たちが、サーバントの死体を見て歓喜の声を上げる。

 死亡者一名を出したこの戦いは、俺達の日常だった。

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