夢でイケメンに追われてます
最近、夢でイケメンに追われている。
もちろん、浜辺であははっうふふっ、なノリではない。
私の寝覚めが汗びっしょりで目覚めるほど、全力疾走である。
親友、美香にそういえば、
『イケメンなんでしょ?捕まっちゃえばいいのよ。夢の中だけでも女の幸せをーってね。』軽くあしらわれた上にバカにされた。悪かったわね、彼氏いなくて。
そもそも夢はコントロール出来るもんでもないし、全力で逃げている夢なのだ。夢は現実世界の深層心理だと言うし、きっと私の第六感が働いてる証拠だ。
−−−−−−−−
毎日汗だくで目覚めるからと言って、なんら現実世界に影響はない。久しぶりに残業が無く、定時に上がれた私は、のん気に会社ロビーを通ろうとした。
「な〜んかあの夢、毎日同じようで、どっか違う気がすんのよね〜」なーんてホントにのんきに。
そして何の気なしにに受付の方を見ると、私の第六感が告げた。
『いい?あの人と目を合わせることなく走って逃げろ!!』
真っ黒い短髪に横顔からも分かる精悍な顔立ち…
私は…
バッ…
第六感の言うとおりに走って逃げた。
カツカツカツ…パンプスをはいているなんて気にしない。あの人から逃げるのが先決だ。今の格好で出せる全力のスピードでオフィス街を抜ける。
ふ、とそこまできて、向こうは気付いて無いんだし、追ってくる訳ないことに思い至った。
ほっと息をついて念のために体ごと後ろを向いた。
刹那
ムギューッ
「!!?」
私は長身の男に抱きつぶされそうになる。
なにするんですか!
そう声を上げたいが、つぶれている私は、息すらままならない。まして話すことなど出来ようか。
…全力疾走の後だからか、息苦しいからか、はたまた今の状況を理解したからか、次第に私の心臓がドキドキし始める。
ちょっ、ホントに苦しいって!
未だに私をムギュッと潰す、長身の男のスーツの裾をなんとか引っ張る。
まじ、苦しいから、はやくはなして。
ようやく私の状況に気付いたのか、男が身体を離そうとする。
そう、早く離せ。離したら思いっきり
「なにするっーん」モガモガ
なにするんですか
そう叫んでやる。と思っていたのに、男の大きな手によって口をふさがれる。
ちょっ、もう片方の手は腰をさわさわしてるしっ!!
初対面であるはずの、あの夢で見たイケメンは私の一枚も二枚も上を行く。
キッ
睨みつけるもなんのその、男は顔を近付ける。
「モ、モガモガ。」(な、何よ)
一瞬びくりとした体を誤魔化すように言う。
「ふーん」
そんな私の全てを見透かすように、シニカルな笑みを浮かべて男は言う。
「なぁ、俺との追いかけっこは楽しかったか?」
楽しいはずあるかっ!!
そう思うものの、未だにに男の手が口を塞いでいるので黙っておく。無駄なことはしない。これ、あたしのポリシー。
「お前は楽しかっただろ?なんせ、7日間も俺と追いかけっこできたんだからな。」
初対面なのに男の尊大な物言いも今は気にならない。
そうか、これだ!!夢の違和感の正体は!
こいつ、毎日距離を詰めてたんだ。
そう、今朝の夢は、私を掴む一歩手前…
「なぁ、もういいだろう?俺は十年待ったんだ。」
耳元で囁かれた言葉と同時に離された手。「十年?」その言葉の意味を聞こうとする前に再び口を塞がれたのは、
男の唇だった。
−−−−
「あのね、その人がすきーって強く思ったら、相手の人の夢に出れるんだってー」
遥か昔、小学生時代に聞いた言葉が私の頭をよぎった。
今回の夢は、深層心理じゃなくて、こっちの方かも。人通りの少なくない途で、大人なキスをしだす男の唇を受け止めて、そう、思った。
−なんで今、こいつを拒否出来ないのか、理由を知るのはもう少し先のお話。