第3話
風牙と正史は寮に着くと2人そろって溜め息をついた。
「また上がるのかよ……。」
「……お前のせいだからな。」
明らかに風牙のせいである30階までの階段を2人は足を引きずりながら歩いて行った。
「そう言えばさ、晩飯どうすんだ??」
「部屋にキッチンが付いてたはずだけど。」
「自炊!?マジかよ〜。香澄でも読んで来たらよかったぜ。」
「そうだ!!それだよ。柊さんに付いて詳しく教えろ。」
いきなり正史が風牙にくってかかる。
「何だよ??惚れたのか??」
「違う。でも可愛い女の子には興味ある。」
風牙はふ〜んと頷いてから質問を質問で返した。
「何が知りたいんだ??」
「だからどう言う関係だよ??」
「幼馴染みって言っただろ。」
「それを詳しく。」
風牙はどう説明するか迷ったらしく、黙り込んで頭を掻いた。
「どんなって言ってもただの幼馴染みだぜ??小さい頃から母親同士が仲良くて、ずっと一緒にいたんだよ。」
「くっそ〜。美少女の恋の相手は大体幼馴染みって相場が決まってるからなぁ。」
正史がかなり偏った偏見を見せたところで風牙がある事に気付いた。
「あれ??ここって30階だよな??」
「??あぁ。ちゃんと上がって来たからな。」
「今、正史の部屋の隣に誰か入ったぜ??」
「へぇ〜。風牙の他にも30階を選ぶ馬鹿はいるんだ。」
「………。」
風牙にささやかな皮肉攻撃をかまして正史は風牙が人が入ったと言う部屋をノックする。
「すみませ〜ん。誰か……。」
正史のセリフが最後まで言い終わらない内にドアは開いた。
「………何だ??」
「あ、えっと、隣に住んでる忠岡正史って言うんだ。あんたここに住むんだろ??」
「ちっ……。誰かいたのか……。」
僅かだが小さい声で文句を言ったのを風牙は聞き逃さなかった。
「ちょ〜と待てよ。俺達がいちゃまずいのかよ!?」
「あぁ。馴れ合うのは嫌いだからな。」
「………。」
一瞬で粉砕。
これ以上何も言うことは無いと思ったのか、バタンとドアを閉めてしまった。
「………なんなんだよあいつ。」
「変わった奴だな。」
正史は干渉しても意味が無いと悟ったのか大して興味を示さなかったが、風牙はかなり興味を示した。
その興味の9割は怒りで構築されていたけど……。
それから2人は悪戦苦闘を繰り返してやっと晩ご飯にありついた。
「正史って料理下手な人だったんだな。」
「風牙もだろ。」
2人は文句を言い合いながら晩ご飯を食べた。
次の日は正史のお陰で風牙は遅刻せずに済んだ。
なんとかギリギリに教室に滑り込み、空いている席に座る。
「あ、あいつ1番前に座ってやがる。」
ご近所さんを見付けて風牙の怒りのパラメーターが上がる。
「みんな席に座れ〜。」
ちょうどいいタイミングで斎藤が入って来たので風牙は怒りをぶつける対象がなくなってしまった。
「お前達の授業は殆んど俺が受け持つ。勿論時間ごとに助手の先生は変わるがな。」
斎藤はそう言って教室を見渡す。
20人でいるには広い教室だ。
「まず点呼を始める。……やっぱりどうみても全員出席だから辞めとく。」
どうやら斎藤はかなり適当な先生のようだ。
こんな先生に授業ができるのかと不安になった生徒もいたはずだ。
「じゃぁ早速午前の授業に入るぞ。」
黒征学園の授業は午前と午後の2時間だけだ。
間にひる休みをはさんでいる。
「まず始めに、暗殺者自身に必要不可欠なものはなんだと思う??え〜じゃぁそこのお前。」
「えっと……殺傷能力です。」
指名された生徒が答える。
「殺傷能力か。まぁそれも大切だがな……。じゃぁこう言う聞き方をしよう。」
そう言って斎藤は違う質問の仕方をした。
「暗殺成功とはどう言う事だ??じゃぁ……お前。」
今度はクラスで2人いる女の子の内の1人が当てられた。
「え……ターゲットを殺すこと……かな??」
「まぁそれも大切だな。しかしもっと大切なのは気付かれないって事だ。」
「気付かれなければ何らかの形で失敗しても次の作者に移れる。さて、じゃぁこれを踏まえて暗殺者に必要不可欠なものはなんだ??え〜じゃぁ次は……お前。」
斎藤はそう言って正史を指差した。
「ネタ入れろって。ウケ狙えよ。」
隣から風牙が余計な事を言う。
「踏まえて……じゃぁ機動力……かな??」
「そう。それだ、機動力。それが1番大事になってくるんだ。今日はその辺の事について講義する。実習はないが寝るな。」
そういって斎藤は話をし始めた。