第9話
斎藤が現代情勢の授業を終え、そのまま解散を言い渡した瞬間に風牙と正史は晴樹を引っ張って教室から出ていった。
クラス全員の好奇心に満ちた視線が後を追う。
「よっしゃぁ!!!一番乗り!!」
風牙は半分蹴破る様な形で闘技場のドアを開けた。
「………い、痛いから離せ。」
襟首を掴まれて引っ張られていた晴樹が言う。
「今思ったら早く来ても三人しかいないんだよなぁ。」
正史は今更気付いた様だ。
「まぁいいじゃん。待ってようぜ。」
ちなみに授業でやる武術は戦闘技術の類ではない。
気配の消し方、後方からの攻撃など正確には暗殺者に必要な暗殺技術を習うのだ。
黒征学院は全国からのよりすぐりの集まりなので格闘技術の類はすでにあるていど持っているのだ。
正史は拳法、晴樹は武器が剣なので武術はほとんど関係ない。
「風牙はどうなんだよ??」
「ん??俺??俺は我流だぜ、我流。」
「……ウソはいい、ウソは。」
「マジだって。我流って言えばカッコいいけど実際は喧嘩殺法みたいなもんだからなぁ。」
しみじみと呟く風牙に晴樹が突っ込む。
「そんなんで良くこの学校に入れたな。」
「強いからな。」
根拠のない自信を余る程持っている風牙を無視して正史は事実を告げる。
「それより誰も来ないよな。」
実際、3人が来てから30分は経ったが今だに誰もこない。
「……誰も聞いてなかったんだろ。」
「……もっと早く言えよ。誰か誘ってきたのに。」
と言う正史の言葉を最後に沈黙ができた。
「ん〜。じゃぁ晴樹は審判してくれよ。正史、模擬戦しようぜ。」
そう言って3人は無駄に広い闘技場に広がった。
「じゃぁルールは無しで。30分一本勝負。始め!!!」
と言う晴樹の掛け声に模擬戦が始まった。
晴樹の掛け声と共に正史は低く構え、踵を少し浮かす。
それに対し、風牙は右足を半歩前に出す。
5秒間の静寂の後、先に動いたのは正史だった。
風牙との距離を一気に詰め、風牙の懐に入る。
そのまま顎に向かってアッパーを繰り出す。
後少しで正史の拳が顎に当たると言うところで風牙は膝蹴りを放つ。
正史はとっさに左腕で防御し、距離をとる。
「零距離から膝蹴りかよ。」
正史は拳法の世界ではありえない攻撃に苦笑いをもらす。
「じゃぁ次は俺から行くぜ??」
風牙はその言葉と共に地面を蹴った。
とっさに上段に構える正史を見て風牙はスライディングの要領で正史の足に滑り込む。
「……っ!!」
予想外の攻撃に思わず足を払われた正史だが、倒れると共に風牙の顔面向かって肘を落とす。
「うわっ!!!」
風牙はそれを間一髪で避け、足を振り上げて正史を蹴り飛ばす。
起き上がったばかりの風牙に正史はハイキックを与える。
風牙は正史のハイキックを腕でガードし、その足を伝って回し蹴りを正史の脇腹に放つ。
片足を取られたままの正史はとっさに付き出したままの右足で風牙の左足を払う。
体勢を崩された風牙はそのまま前回りの要領で正史に踵落としを繰り出す。
「……っ!!」
またもや予想外の攻撃に正史は一旦引く。
「ったく。訳分かんねぇ攻撃ばっかすんなよ。」
風牙の攻撃は基本の体勢や型を無視しているので少しでも武術に通じているものからすればありえない攻撃となるのだ。
「まぁ基本とか全く無視だからな。」
それから2人は一進一退を繰り返し結局勝負が着かないまま30分がたった。
「終わり!!!」
と言う晴樹の言葉と共に2人は倒れ込んだ。
「……つ、疲れた。」
「………。」
2人はもはや喋れないらしい。
「……先に帰っとくからな。」
審判をしていた晴樹は特に疲れた様子もなく、2人を待とうとはせずさっさと帰ってしまった。
2人にはそれを止める気力さえない。
「………これからあの階段登るのかよ。」
「……しかもお前は料理担当だ。」
「………。」
風牙は一瞬帰らない事も考えたが後々の事を考えてやっぱり帰る事にした。