人類に対する宇宙人の要求とその対応について
※本作はフィクションです。実在の法律・人物・団体とは一切関係ありません。
外宇宙から地球へ飛来した未確認飛行物体が、地球人に対してコンタクトを取ってきた。
地球を代表して対応したアメリカ大統領。
彼は会談が終わるや否や、他のG7首脳に対し緊急招集をかけた。しかもweb会議だ。
寸刻を惜しむように開かれたそれに、事の深刻さが伺える。
緊張する各国首脳。
「で、大統領。宇宙人はなんと?」
「地球の有名な楽器を一つ、差し出せと、要求してきた。」
「なんと!?」
「それは、つまりこの世界から、その楽器が失われると…」
「そういうことになるだろうな。」
大変なことになった。
しかし、もとより拒否するには危険すぎる相手だ。従うしかあるまい。
抵抗は早々に諦め、憐れな生け贄選びを始める各国首脳。
「シンバル、要らなくない?簡単そうだし。」
「馬鹿言え!アレは簡単そうに見えて難しいんだぞ。
素人がやると『バフッ』とか『ベインッ』とかしか鳴らないし。
【その時】が来るまで辛抱強く待ち、タイミングを間違えてはならない。
とてつもないプレッシャーだ!
そんなシンバル奏者に向かって、『要らなくない?』とか言えるか貴様?」
「じゃあ、トライアングルは。」
「オーケストラの中で、あの一服の清涼感を出せる楽器が他にあると思うか?
見た目とか「楽そう」とかで判断するなこの野郎!」
「カスタネットは要らんやろ。」
「カスタネットを初めて手にした子供達の、あの笑顔を奪えと?」
「クラリネット、要らなくない? 地味だし。」
「あのな…あれはガンダムでいうジムとかザクよ?エースじゃないけど戦いの主力。無いとまず戦いすら始まらねーのよ?」
「チェロがあればコントラバス要らないと思う人〜っ。」
「コントラバスあればチェロは不要と思う人〜っ。」
「…んだとコラ?」「…やんのかこら?」
「キーボード!!
ライブ行っても、な〜〜〜んも聴こえん。」
「おいコラ。」
「キーボードは要るだろ…バンドのキーボードは要らんけど。」
「待てコラ。」
「ソプラノリコーダーって必要?」
「小学生の小さいお手々でアルトリコーダーを使えと申すか?
ならば不要なのはアルトリコーダーが先であろう?」
「中学男子のでかい手を舐めるな。ソプラノリコーダーは小さすぎる。」
「リコーダー自体要らなくない?」
「「…それは確かにそう。」」
…と、誰かが特に思い入れの無い楽器を槍玉に上げては、それが別の誰かの逆鱗に触れる。
嗚呼、人間とはなんと勝手な生き物か。
「いい加減にしなさい!!!」
突如、日本の総理大臣が、大声で場を制した。
「どうしたPrimeMinisterスイタ? いつもは穏やかな君が。」
「……中学、高校と吹奏楽部だった私から言わせてもらおう。
すべての楽器は素晴らしく尊きもの。
どれ一つとっても、『無くして良い』ものなど有りはしないっ!!」
「しかし、そうは言ってもだな…宇宙人が要求しているのだぞ?」
「であるならば、不肖吹田奏。宇宙人に直談判してまいりましょう。
腹掻っ捌いてでも、宇宙人に翻意を乞い願う所存!!」チャキ
「やめろ馬鹿その物騒な脇差しをしまえ。」
そんな収集のつかない首脳会議が続くこと数時間。
遂に業を煮やした宇宙人が会議に乱入した。
『一体何ノ騒ギダ!?
私ノ要求ハドウナッタノダ?何時マデ待タセルツモリダ?』
『【楽器好キナ娘ヘノ地球土産ニ、何カオ薦メハ無イカナ?】トイウ質問ニ答エルダケデ、何故コンナニ時間ガカカルノダ!!』
おしまい




