第08話 日常の小さな自由
屋敷に戻ってからの数日間、リオンの生活は淡々としたルーチンを繰り返していた。
狩り。
朝早く起き、アンセルや数人の使用人と山へ入る。
ボウガンを肩に掛け、藪を抜けてイノシシやシカを探す。
傭兵として培った感覚は、体の小さなリオンでも十分に通用した。
獲物を仕留めるたび、胸の奥に小さな達成感が芽生える。
焼肉の楽しみ。
夕方、屋敷に戻ると使用人たちと共に台所で獲物をさばき、焼きながら食べる。
火の上で弾ける脂の匂い、ジュージューと響く音。
食卓では、笑い声と冗談が飛び交った。
傭兵として血や死に慣れていた俺だが、この小さな宴は、別世界の平和のように心地よかった。
特に、台所で手際よく動くメイドのクラリスは、自然体でありながら頼れる存在だった。
「リオン様、火加減気をつけて」
「こっちの肉も、少し炙りすぎじゃないですか?」
彼女のさりげない指示に従いながら、リオンは少しずつ笑顔を見せられるようになった。
三ヶ月後の変化。
日々の狩猟と焼肉パーティーの繰り返しで、使用人たちとはすっかり仲良くなった。
アンセルは忠実な護衛のように頼れる存在となり、クラリスは俺の小さな相棒兼理解者になった。
この三ヶ月で、泣き虫のリオンが抱えていた孤独は少しずつ薄れ、屋敷内での“隠れた居場所”が確立されつつあった。
傭兵としての冷徹さと、貴族の次男坊としての弱さが混ざった不思議な日常。
だが、ここでは血を流さずとも生き延びる方法がある。
それを、俺はこの小さな共同体から学んでいた。
クラリスと顔を見合わせ、笑いながら肉を口に運ぶ。




