第86話 国境の街イアス
数日間の北への旅路を経て、リオンはようやくクレスモア王国の国境に辿り着いた。
街の名はイアス。
山岳の麓に築かれた城塞都市で、鉱石や木材を運ぶ商隊の往来でにぎわっている。
街門の前には兵士が立っていたが、その表情は穏やかで、どこか安心感があった。
リオンが冒険者証を提示すると、兵士は軽く頷き、にこりと笑う。
「ご苦労。こちらは平和な国だから、安心して旅をするといい」
その言葉に、リオンの肩の力がふっと抜けた。
これまで通ってきた国々は、戦や内乱、あるいは高すぎる税に怯えた人々で満ちていた。
だが、イアスの門を越えた瞬間。
広がる街の景色には活気がありながらも、どこかのんびりとした空気が漂っていた。
石畳の通りには露店が並び、焼きたてのパンや果物の香りが風に乗って漂う。
子どもたちが通りを走り回り、商人たちは声を張り上げて客を呼び込んでいる。
その光景に、リオンは思わず笑みを浮かべた。
「……平和って、やっぱりいいな」
まずは安宿を探し、それから冒険者ギルドに顔を出してみよう。
そう心に決め、リオンは活気あふれるイアスの街並みに歩みを進めていった。




