第84話 北を目指して
テントの街に滞在して三日。
街を歩けば歩くほど、嫌な現実ばかりが目についた。
物価は異常に高く、まともな依頼はなく、街の空気は荒みきっている。
冒険者ギルドですら、戦争絡みの護衛や徴兵の代わりみたいな依頼ばかりで、銅級の少年には荷が重いというより、死地に放り込まれるのと変わらなかった。
リオンは安宿の狭い部屋で荷物をまとめながら、小さく息を吐いた。
「……バルディア王国は無理だな」
戦場の空気に片足を突っ込みながら生きるつもりはない。
思い返せば、リヴェルン王国から西に抜けたときから嫌な予感はあった。
ライストア王国もリトルリア王国も戦争の火種を抱えていた。
そしてバルディア王国は、予感がそのまま現実になった。
リオンは地図を広げ、指でなぞる。
北、クレスモア王国。
山岳と鉱山の国。交易も盛んで、戦乱とは距離を置いている。
「……北に行こう。クレスモアなら少しは落ち着いてるはずだ」
荷物を背負い直し、宿を出る。
朝の光が差す街路で、すでに兵士たちが訓練の号令をかけているのが耳に届いた。
不安を煽る喧騒を背に、リオンは街を後にする。
国境の関所を抜けるための道は険しいが、彼にとっては自由への道でもあった。
「戦争ばかりの国なんて、こりごりだ」
鼻歌まじりに街道を歩き、リオンは新しい行き先に心を決めた。




