第78話 戦争の影
リオンは護衛任務で南へ向かい、ついにリトルリア王国の国境の街。
リストに到着した。
街門をくぐると、普段の平穏な街並みとは違い、慌ただしい空気が漂っている。
広場では兵士たちが急ぎ足で行き交い、訓練用の武器を整えていた。
伝令が慌てて書類を抱えて走り、市民たちは恐怖と不安の表情で囁き合っている。
掲示板には《ライストア王国軍、国境へ接近中》という文字が、赤い印とともに貼り出されていた。
街の中は、まさに戦争間近の緊張感に包まれていた。
リオンは肩の猟銃を軽くさすりながら、静かに眉をひそめる。
「……戦争か。……嫌だな」
鼻歌の代わりに、心の中で小さくつぶやく。
戦いはもう十分に経験した。自分の力で守れる範囲なら構わないが、無関係な戦争に巻き込まれるのは望んでいなかった。
酒場や市場では、市民や商人たちが戦況を心配し、声を潜めて話している。
「王都近くで戦闘が始まったらしいぞ」
「国境の防衛が急務だ……」
そんな声があちこちで飛び交う中、リオンは深く息をつき、肩をすくめた。
「戦争には関わりたくない……でも、護衛任務なら人を守れる」
そう自分に言い聞かせながら、リオンは不安に揺れる心を、静かに護衛の使命で落ち着けていった。




