第05話 鳴いた腹と朽ち木の弩
屋敷の食卓の皿は、日に日に貧しくなっていった。
薄く伸ばされたパンに、煮詰めた野菜の汁。栄養らしいものはほとんど見当たらない。
長男や父の前にはそれなりの皿が並ぶが、俺の前には冷めた粥があるだけだった。
(なんだよ、これだけか……!)
子供の身体は怒りで震えた。
戦場なら弾丸と交換するところだが、ここではそうはいかない。
ならば手を動かすしかない。
リオンは最初、兄の真似をして魔法を使おうとしたが、魔法の概念がリオンにはなく、「魔法とは?」と考えるうちに面倒になってしまった。
そこでリオンは使用人のもとへ駆け寄り、土下座した。
服が床に擦れ、汚れが手のひらに入り込む。だが、そんなことはどうでもよかった。
「アンセル……お願いします、木材と毛糸、あと大工道具を……少しの間だけ貸してください!」
老使用人アンセルは驚き、言葉を失った。
「リ、リオン様……?」
泣きそうな顔で懇願する次男坊を前にして、さすがのアンセルも断れない。
黙って頷き、小箱を抱えて裏庭へ案内してくれた。
裏庭には古びた納屋があり、丸太やノコギリ、釘、釣り糸用の毛糸の束が揃っている。
俺は腰を上げ、真剣な目で道具を手に取った。
ボウガン。傭兵時代の感覚が、胸の奥でざわりと蘇る。
矢ではなく短いボルトを撃つ弩なら、子供の腕でも扱えるはずだ。
丸太を削ぎ、毛糸を編んで弦を張り、滑車や金具で簡素ながらも確実に飛ぶ仕組みを作る。
作業は手早く、だが慎重に行った。
指先にはまめができ、手は木屑と泥で真っ黒になる。
それでも、腹の不満は徐々に道具へと姿を変えていった。
夕暮れ近く、簡素だが機能するボウガンが完成する。
木は粗削りだが堅く、毛糸の弦もよく張れている。
ボルトは納屋の破片を削って作り、先端に小さな金具を仕込んだ。
「よし……これで少しは腹の虫を抑えられる」
手に取った瞬間、戦場での感覚が肌に蘇る。




