第53話 治療と幻影絵本
王都リヴェルン、フィリップ男爵邸。
リオンは一ヶ月もの間、男爵令嬢の治療に専念していた。
毎日の薬の投与、点滴の管理、栄養と休養の調整。
細かい作業を丁寧に続けた結果、少女の咳は少しずつ治まり、微熱も安定してきた。
リオンは治療の進捗を確認し、必要な薬を半年分まとめて用意した。
薬を整理し、箱に丁寧に収めると、フィリップ男爵に渡した。
「この薬を半年間、令嬢に飲ませてください」
男爵は深く頭を下げ、リオンの努力に感謝した。
そして、リオンはついに幻影絵本を少女に披露する時を迎えた。
小さな手を伸ばし、スイッチを押すと、光と音がゆっくりと広がり始める。
妖精や小動物、冒険の舞台が壁や天井に浮かび上がり、星座のように形を変えながら物語を紡いだ。
「わあ……きれい……!」
少女は目を輝かせ、声を弾ませて笑った。
咳で沈んでいた顔が、久しぶりに明るく輝く。
リオンは微笑みながら、静かに見守る。
光と音の物語が、少女の心に喜びを取り戻していた。
フィリップ男爵も深く息をつき、リオンに礼を言った。
「リオン殿、本当に感謝する。おかげで娘は元気を取り戻した」
リオンは軽く頭を下げ、心の中で小さくつぶやいた。
「これで少しでも、君の笑顔が続くといい」




