第04話 家族の視線
屋敷に戻った俺は、すぐに玄関ホールへと引き立てられた。
質素ながらも磨き上げられた床。
だが、それ以上に冷たい視線が突き刺さる。
「……戻ったか」
低く唸るような声を響かせたのは父、グスタフ・アルベール男爵。
男爵とはいえ一領地を預かる領主。
その威厳は確かにあるが、俺を見る目には父としての温もりは一欠けらもなかった。
「まぁ……なんて有様なのかしら。血塗れで、しかもその格好……」
扇子で鼻先を覆いながら嘲るように言ったのは継母、イザベラ。
村娘の出でありながら、美貌を武器に後妻として屋敷に入り、今では男爵夫人を気取っている女だ。
俺の服の赤黒い染みを一目見て、露骨に眉をひそめる。
「父上、母上……やはりリオンは駄目なままです」
冷ややかに言い放つのは、兄のエドワード。
家の跡取りとして可愛がられ、剣も学問も並以上。
アルベール家の希望と呼ばれているが、その分、俺に向ける視線は徹底して軽蔑に満ちていた。
「山に行きたいからと護衛をつけてやっても、崖から落ちるとは……! これ以上、我がアルベール男爵家の恥を晒すつもりか!」
「ご覧なさい、あの格好……まるで野良犬ですわ」
「泣いてばかりで何もできず……リオン、お前にはアルベール家の血が流れているとは思えぬ」
三人の声が、矢のように突き刺さる。
リオンの記憶が胸を締めつけた。
いつもこうだった。叱責され、罵られ、涙で謝るしかなかった。
それでも、決して許されはしなかった。
だが今は違う。
血と戦場を知る俺が、この幼い身体の奥にいる。
「…………」
俺は無言のまま、三人を見返した。
幼い顔のまま、だが血に濡れた笑みを浮かべながら。
グスタフは一瞬、息を詰めたように視線を逸らした。
イザベラは「気味が悪い」と吐き捨て、エドワードは苛立たしげに拳を握った。
その夜、俺は悟った。
アルベール男爵家、こここそが戦場以上に冷たく、残酷な場所なのだと。




