第41話 密かな『スキル《家移転》』
リオンの生産商会は順調に軌道に乗っていた。
街中からの注文は増え続け、売上は日に日に積み重なっていく。
ライトやクマ幻灯機の人気は衰えず、従業員たちの手際も目に見えて早くなっていた。
「……そろそろ次の準備ができそうだな」
そう呟いたリオンは、ハロルド商会を通じて街外れの空き倉庫をひそかに借り受けた。
人気の少ない道を抜け、目的の倉庫の前に立つ。
扉を閉めて深呼吸し、心の中で静かに唱えた。
(スキル《家転移》)
瞬間、淡い光が倉庫内に広がり、空間がわずかに歪む。
次の瞬間、何もなかった倉庫の中に、リオンのセーフハウスがすっぽりと現れた。
リオンは暗証番号を押し扉を開けて中に入り、家の中をゆっくりと確認していく。
家具も装飾もすべて元のまま。
生活空間と研究・開発の場を兼ね備えた、理想的な秘密基地が完成していた。
「……完璧だ」
小さく笑いながら、リオンは家の奥まで歩き回る。
この《家転移》のことは、まだゼルファには内緒だ。
驚かせるのも悪くないが、今は秘密にしておいたほうが研究や量産の自由度が高い。
そう判断した。
家の天井を見上げ、リオンは静かに頷く。
「これで……準備は整ったな」
こうして、リオンは倉庫の中に家を密かに転移させ、ゼルファにも知られぬ自分だけの秘密基地を手に入れたのだった。




