第03話 使用人たちとの再会
山道を下り続ける。
靴は泥に沈み、濡れた服は肌に張り付いて重い。
息が白く漏れ、子供の身体の弱さを嫌でも実感させられる。
その時、人の声が聞こえた。
「……リオン様! リオン様ではありませんか!」
振り返ると、数人の男女が駆け寄ってきていた。
粗末ながらも揃いの制服を着ている。
アルベール家の使用人たちだ。
驚きと安堵、そして恐怖の入り混じった目で俺を見ている。
「まさか……崖から落ちたと聞いて……!」
「血に……いったい何が……」
彼らの視線は俺の服に釘付けになっていた。
当然だ。
洗ったとはいえ、赤黒い染みが全身に広がり、しかも水で濡れてビチャビチャのままだ。
それは“助かった”というより、“血の臭いを纏った怪物”のように見えるだろう。
俺は思わず構えそうになった。
腰に武器はない。だが目の前の人間が敵か味方か、判断を誤れば命を落とす――そういう世界に俺は長くいた。
「……近寄るな」
低い声を出したつもりが、子供の声帯はそれを裏返してしまう。
使用人たちは一瞬たじろぎ、それでも恐る恐る口を開いた。
「リオン様……お屋敷へお戻りください。奥様も旦那様も、必死にお探しなのです」
「どうか……そのお怪我を……」
彼らは敵ではなさそうだ。
だが、血に染まったこの姿を見られるのは不味い気がする。
いや、もう手遅れか。
俺は深く息を吐いた。
「……わかった。案内しろ」
使用人たちの顔に、安堵の色が広がる。
その輪に囲まれながら、俺は山を降り始めた。
だが胸の奥では、別の記憶がざわついていた。
泣き虫のリオン・アルベールなら、今頃きっと泣きじゃくり、使用人たちに抱きついていただろう。
だが俺は、血に濡れた笑みを浮かべながら、ただ静かに歩を進めていた。




