第32話 魔石の手袋
最初は、ミスリルを使わない魔導装置を作ろうと考えていた。
だが、配線そのものにミスリル粉を用いることを知った瞬間、すべての計画が頓挫した。
リオンはすぐにゼルファのもとを訪れ、頭を下げた。
「ゼルファ、魔法を教えてくれ」
ゼルファは煙管をくゆらせながら、半眼でリオンを見た。
「う〜ん……魔力を感じん」
その一言で、リオンは魔法を使う夢を諦めた。
だが、それでもどうしても魔導装置にはミスリル粉の扱いが必要だった。
考え抜いた末、リオンはもう一度ゼルファに頼み込む。
「ゼルファ、あのミスリルの粉を、俺でも扱えるようにできないか?」
リオンの瞳は真剣だった。
ゼルファは眉をひそめ、呆れたように鼻を鳴らす。
「は? 魔力もない小僧が、あんな代物を扱えるとでも思ってるのか」
だが、リオンは机の上に見慣れぬ道具を置いた。
リオンが作った魔導装置もどきのハンダゴテの試作機。
リオンは使い方を教えた。
ゼルファはしばらくそれを眺め、やがて口角を上げた。
「……なるほど。面白い発想だな」
それから彼は、黙々と作業台に材料を並べはじめた。
革の手袋、小さな魔石、そして金属の導線。
「よし、わかった。魔石を組み込んだ手袋を作ってやる」
ゼルファは手際よく作業を進め、魔石を掌の中心に埋め込んでいく。
魔力をもたぬ者でも、魔石が代わりに魔力を供給する。
ハンダゴテのように熱を伝え、ミスリル粉を自在に融かすことができる仕組みだった。
数時間後、完成した手袋をリオンは慎重にはめた。
掌に温かい光が灯り、指先から微かな振動が伝わる。
「……なるほど、これで粉を溶かしたり、装置に組み込むことができる」
小さな金属皿の上、ミスリル粉を指先でそっと触れる。
粉は淡く輝きながらも暴発せず、リオンの意のままに流れ動いた。
ゼルファは顎に手を当て、にやりと笑う。
「ふふ……やるじゃないか、小僧。魔力ゼロでも、これなら魔導装置の実験に十分対応できるな」
リオンは手袋を握りしめ、小さく笑った。
「ありがとう、ゼルファ」




