第25話 轟音
馬車を取り囲む盗賊たち。
剣や槍を構え、怯える商人と護衛を見下ろして笑っていた。
「荷を置いていけ! 血を見たくなけりゃ大人しくしろ!」
護衛は必死に剣を握るが、数では圧倒的に不利だった。
その時。
ドォン!
雷鳴のような轟音が森を揺らした。
一人の盗賊が頭を弾かれ、血飛沫を撒き散らしながら地に崩れる。
「な、なにっ!?」
「魔法か!? どこからだ!」
盗賊たちは慌てて周囲を見回す。
再び轟音が響き、今度は胸を撃ち抜かれた盗賊が後ろへ吹き飛んだ。
その傷口は焼け焦げ、肉が抉れている。
剣でも矢でもあり得ぬ威力。彼らには理解できない死だった。
「ば、化け物……!」
「や、やめろ……!」
リオンは木陰から一歩踏み出す。
手に握られているのは黒鉄の奇妙な筒。
異世界の誰も知らぬ兵器。銃だった。
盗賊の一人が叫びながら突進する。
次の瞬間、銃口が火を吹き、男の腹を貫いた。
轟音とともに血煙が舞い、地面に倒れ込む。
残りの盗賊は恐怖で腰を抜かし、何人かは逃げ出した。
だがその背中に、リオンは無慈悲に引き金を引く。
銃声が連続し、逃げた者も次々と沈んでいく。
静寂。
護衛たちは剣を構えたまま立ち尽くし、商人は震える声を漏らした。
「い、今のは……何の術だ……? 火と雷が一つになったような……」
リオンは冷ややかに銃口を下げ、答える。
「……俺の魔法だ。気にするな」
商人は恐怖と敬意が入り混じった目でリオンを見た。
「……助けていただいたこと、決して忘れません。私はハロルド・カンベル、リベスト街の商会の者です。お、お礼をさせてください」
リオンは短く頷いた。
「……よろしく」
銃を知らぬ異世界で、その轟音は人々の記憶に深く刻まれた。




