第23話 新しい日常
朝、セーフハウスの窓から差し込む光で目を覚ます。
太陽が昇ればソーラーパネルが稼働し、家の中に電気が満ちていく。
ポンプの低い駆動音と共に、川からくみ上げられた水がろ過され、タンクに溜まっていく。
リオンは顔を洗い、シャワーを浴び、清潔な服に着替える。
戦場と血の臭いに染まった日々とは正反対の、穏やかな朝。
だが心の奥底は、決して油断してはいなかった。
まず行うのは狩りだ。
セーフハウス近くの森にはシカやイノシシが多く、前世のように猟銃を使えば容易に仕留められる。
血抜きをしてセーフハウスまで引きずり、家のモーターで獲物を釣り上げ解体。
肉は燻製に、皮は乾かして防寒具に、骨はダシや道具に再利用する。
「便利な時代に戻ったもんだ……」
ペットボトルの水を片手に、肉を解体しながら鼻歌をこぼす。
次に向かうのは工房。
壁際に並ぶ工具を取り出し、かつて戦場で慣れ親しんだ銃を手に取る。
分解、洗浄、組み立て。
必要なら改造を加え、弾薬を補充する。
剣や弓が主流のこの世界で、銃は絶対的な切り札になる。
夕暮れ時、肉を焼き、米の代用品として森で採れた野草を煮る。
電灯が灯り、温かな明かりが部屋を照らす。
リオンは一人、静かに食事を取り、ワイン代わりの木の実ジュースを口にする。
「ふっ……ここなら、誰にも邪魔されない」
その笑みは穏やかでありながら、どこか獣めいた光を宿していた。
リオンの新しい日常は、こうして静かに始まった。




