第215話 講義中止命令と、増える予兆
それは、最悪の形で訪れた。
「……王」
報告役の文官が、言葉を選びながら切り出す。
「狼族代表の一人、ルナに……」
「待て」
リオンは、嫌な予感を覚えながら手を上げた。
「その先は、俺の胃に優しい内容か?」
沈黙。
その時点で、答えは出ていた。
「……妊娠の、兆しが確認されました」
一瞬。
世界が、止まった。
「は?」
間抜けな声が、王の口から漏れる。
ガルヴァンは、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「……誰の?」
文官は、視線を逸らす。
「講義と称した、実践の……」
「ストップ!」
リオンは机を叩いた。
「即時だ!全講義、全実践を全面禁止!」
声が、王都に響く。
緊急通達は、即座に出された。
【王直属講義】
・講義および実践を即日、全面禁止
王都の女性達は、一気にざわついた。
「え?」
「急すぎる」
「狼族のせい?」
だが、リオンに構っている余裕はなかった。
「……避難だ。北部の森へ、ルナを移す」
リオンは、苦渋の表情で決断する。
「安全な場所で、静養させる。これ以上、
王都を混乱させるわけにはいかない」
ガルヴァンは、腕を組み、重く頷いた。
「妥当だ。だが……また、同じ流れになるぞ」
リオンは、答えなかった。
答えたくなかった。
北部の森。
かつて狼族の里だった場所は、今や精霊の気配が濃い、静かな森となっていた。
ルナは、穏やかな顔で木陰に座っている。
不安よりも、どこか覚悟を決めた表情だった。
そこに、ラミが付いてきていた。
止めても、聞かなかった。
森を見回しながら、ラミがぽつりと言う。
「ねえ。また、私達の神様が生まれるのかな?」
その一言で。
リオンとガルヴァンは、同時に固まった。
「……は?」
「……今、なんて?」
ラミは、首を傾げる。
「だって」
「精霊さん達、前もそんな事言ってたし。ゼオンの時と、似てる気がする」
沈黙。
風が、森を揺らす。
ガルヴァンが、額を押さえた。
「……おい、リオン。冗談だよな?」
リオンは、乾いた笑いを浮かべる。
「冗談であってくれ。頼むから」
だが精霊の気配は、確実に集まり始めていた。
王都で起きた混乱は、まだ序章に過ぎなかった。
リオンの胃は、静かに限界を迎えつつあった。




