第214話 講義という名の包囲網
平和は、確かに戻っていた。
街は賑わい、交易は活発になり、精霊もおとなしい。
問題は、王宮の中だけだった。
「王」
まただ。
リオンは、机に積まれた申請書の山を見つめていた。
上から順に読む。
・ドワーフ代表
「王の講義を希望」
・獣人連合
「講義枠の公平化を要求」
・元奴隷解放民団体
「王との直接講義を」
・エルフ長老会
「講義内容の再定義を協議したい」
紙が、終わらない。
「……増える……増えるよ」
声が、かすれる。
ガルヴァンは、すでに諦めた目をしていた。
「狼族を通した時点で、こうなるのは見えていた。講義=王と直接関われる。これはもう、政治的な話だ」
「俺はそんな制度作ってない!」
「だが存在している」
ガルヴァンは淡々と言い切る。
「王の存在そのものが、制度だ」
リオンは椅子にもたれ、天井を見る。
「……胃が痛い」
最初に来たのは、ドワーフだった。
「講義は求めない」
「ただし、夜通しの実践を希望する」
胃に悪い。
次は、獣人。
「種族間の差別が起きぬよう、講義(実践)の“時間配分”を」
胃に悪い。
次は、エルフ。
「リゼだけ特別扱いでは?」
胃に悪い。
最後に、人間代表。
「王は、誰の王なのか」
致命傷。
「……全部、俺が悪いのか?」
深夜。
リオンは、一人で書斎にいた。
胃薬を飲んでも、胃の奥が焼けるように痛む。
そこへ、ラミが現れた。
菓子をかじりながら、無邪気に言う。
「ねえリオン」
「みんな、リオンが好きなだけじゃない?」
その一言で、逆に胃が締め付けられた。
「好意で国家が回るか……」
翌日。
正式な通達が出た。
【 王直属講義】
・各種族の人数制限
・内容の文書化
・実践要素の厳格制限を設ける
当然、反発が出た。
王都に、不満が渦巻く。
精霊は、黙って見ている。
それが、余計に怖い。
ガルヴァンは、王の執務室に入るなり言った。
「王。これ以上は、お前の体がもたん」
「……俺もそう思う」
リオンは、机に伏した。
「胃が……完全に壊れかけてる」
ガルヴァンは、深く息を吐いた。
「決断の時だな。講義を制度として、終わらせるか」
リオンは、震える手で顔を覆う。
王としての責任。
個人としての限界。
その狭間で胃だけが、確実に死に向かっていた。




