第212話 禁足の森と、外側に残された祈り
北部山岳地帯。
かつて狼族の里だった場所。
今は、森そのものが変質していた。
木々は不自然なほど整い、空気は澄み切り、魔力の流れが一定に保たれている。
精霊たちが造り上げた結界。
人も、魔物も、そして、精霊を扱えるエルフでさえ、許可なく踏み込めない領域。
森の中央には、精霊のみが通れる**門**が静かに浮かんでいた。
触れれば消え、意思を持つ者だけが通過できる、完全な精霊式構造。
問題は、エルフたちだった。
「……入れない?」
「なぜ、我々だけが」
「王の子がいるのに」
王都ガルリオンでは、エルフたちの不満が日増しに膨らんでいた。
リオンは、それを力で抑えなかった。
代わりに場所を与えた。
北部山岳地帯を囲むように、森の外縁部。
そこに、ゼオンの祭壇を建てることを許可した。
「森の中には入れない。だが、祈る場所までは奪わない」
白木と石で造られた簡素な祭壇。
精霊の力は一切使われていない。
だが、そこに集まったエルフたちは、
静かに頭を垂れた。
「……王は、我らを拒絶しなかった」
「ハイエルフ様との距離を守れと言っただけだ」
結果として、エルフたちは王都を離れ、
北部外縁へと移動していった。
王都の緊張は、一段落する。
その日の夜。
リオンは執務室で、ガルヴァンを呼び出した。
「北部山岳地帯の森について」
ガルヴァンは背筋を伸ばす。
「うむ」
リオンは地図を指し、淡々と言った。
「守りを厳重にしろ」
「精鋭を常駐させろ。交代制でいいが、隙を作るな」
ガルヴァンの目が鋭くなる。
「……王命だな」
「王命だ」
リオンは一瞬だけ、視線を落とした。
「誰であろうと精霊以外、勝手に森へ踏み込ませるな、例外はない」
ガルヴァンは、ゆっくりと頷いた。
「了解した、リオン」
「この森は国家の最重要防衛区域として扱う」
森の中では、精霊たちが静かに門を磨き、森の外では、エルフたちが祈りを捧げ、ガルリオン共和国軍が剣を構える。
リオンは城から、北部の情報が書かれた紙を読みながら思った。
(……守るって、戦うより疲れるな)
それでも彼は王として、線を引いた。
踏み込んではならない場所を、はっきりと。
だか、これは問題の先送りとも言える。




