閑話 日本側の苦闘
「異世界案件、想定外が過ぎる」
東京都某所。
外務省・地下会議室。
そこには疲れ切った大人たちが集まっていた。
「……では、現状報告を」
そう切り出したのは、外務省・異世界対策室(仮)の室長だった。
ホワイトボードには、大きくこう書かれている。
・異世界国家:ガルリオン共和国
・国家元首:リオン(実質)
・問題点:神が現実化しつつある
「……最後の一行、誰が書いた?」
「私です」
部下が静かに答える。
「嘘だろ?」
室内に、重いため息が広がった。
「まず確認します。現在、日本国内に保護されているのはエルフ女性一名、および乳児一名」
「で、医学的には?」
医師の報告書が回される。
「母子ともに、完全に人間と同一。健康面に異常なし。精霊反応は日本国内では、一切確認されず」
「……つまり?」
室長が額を押さえる。
「向こうで神扱い、こちらでは普通の赤ちゃんです」
「リオン氏は胃が痛いたくなるな」
別の職員が手を挙げる。
「問題はそこではありません」
「何だ」
「異世界側で、精霊とエルフ族が暴走気味です」
スクリーンに映る映像。
・光る王都
・増える光の玉(精霊)
・王都で祈るエルフ達(美形)
「ファンタジー映画か?」
「リアルです」
「……帰りたい」
さらに追撃。
「異世界側からの要望です」
「“日本側には精霊が行けない理由を説明してほしい”と“ゼオンが神話的存在かどうかの見解を求める”それと最後に“子供を返せという宗教的圧力が発生中、胃薬求む”」
室長は、椅子に深く座り直した。
「……説明できるか?胃薬は用意出来るが……」
「無理です、胃薬は送りました」
そこへ、一通の追加報告。
「リオン氏からです」
「読んでくれ」
職員が淡々と読み上げる。
「『精霊がうるさい。エルフ達の無言の圧力がキツイ。正直、胃が限界』」
「……リオン氏も胃をやられているのか」
「はい」
別の部署から声が上がる。
「マスコミ対策は?」
「異世界は“幻想的で旅行には最高”で押し通しています」
「赤ちゃんは?」
「“外国籍要保護者”扱いです」
「神の子疑惑は?」
「封印しました」
「英断だ」
会議の最後。
室長は、全員を見渡して言った。
「いいか」
「我々の任務は三つだ」
・一つ、異世界との外交を破綻させないこと。
・二つ、日本国内を混乱させないこと。
・三つ、胃薬を切らさないこと。
全員が、無言で頷いた。
その頃。
日本の病院の一室。
穏やかな光の中で、ゼオンはすやすや眠っていた。
リゼは、窓の外を見ながら呟く。
「……向こう、大丈夫かしら」
毎日、届くリオンの動画。
『リゼ、元気か?ゼオンの元気な姿を見れて嬉しい。もう少しだけ我慢してくれ』
動画のリオンの顔に疲労を感じたリゼは、苦笑いを浮かべた。
「……大変ね、リオン」
日本側も、異世界側も。
この世界で一番平和なのは何も知らず眠る赤ちゃんだけだった。




