第210話 王、捕獲される
王都ガルリオン、昼。
リオンは今日も玉座から一番遠い場所。
執務室の隅で、静かに資料を眺めていた。
「……精霊増加報告、またか」
その瞬間。
バン!!
扉が破壊される勢いで開いた。
「見つけたぞ王ァァァ!!」
鎧姿のガルヴァンだった。
目は血走り、背後には逃げ場を完全に塞ぐ近衛兵。
リオンは反射的に立ち上がる。
「え、あ、ガルヴァン?今日は会議――」
「黙れ」
次の瞬間。
ガシッ
首根っこを掴まれた。
「王の捕獲を開始する」
「待って!? 捕獲ってなに!?」
「言葉通りだ」
そのまま引きずられる王。
議会場。
ドンッ!
床に下ろされるリオン。
「見ろ」
ガルヴァンは腕を振る。
精霊請願書の山。
各種族の抗議文。
宗教団体(自称)の署名。
「精霊は増えすぎ、エルフは“神の子を返せ”と騒ぎ、商人は参拝客相手に勝手に露店を出し、議会は機能不全!!」
机を叩く。
「何もするなとは言ったがどうにかしろ、王!!」
リオンは冷や汗をかきながら、小さく答えた。
「……うん、うん、だよね(身勝手の極み)」
その時だった。
「ねぇ」
のんびりした声。
リオンの横。
いつの間にかそこにいたラミが、お菓子をポリポリ食べながら言った。
「精霊さんたち、お話したいだけだと思うよ?」
議場が静まる。
ガルヴァンがゆっくり振り向く。
「……ラミ?」
「うん」
ラミは頷き、クッキーをもう一枚口に放り込む。
「だからさ、ラミ主催で“精霊お話会”やろ?」
「……は?」
「お茶とお菓子用意して、ちゃんと話すの」
精霊の声が、ざわ、と空気に混じった。
『それ、いい』
『王様に怒られない?』
『お菓子ある?』
リオンは一瞬考えた。
「……それ、いけるかも」
即答した。
ガルヴァンの目が細くなる。
「リオン」
「うん?」
「逃げるなよ」
「今回は逃げない」
珍しく、即答だった。
その日の夕方。
王都中央広場。
即席の円卓。
お茶。
大量のお菓子。
精霊たちがふわふわ集まり、ラミが中央に座る。
「じゃあね」
ラミはにこっと笑った。
「順番にお話しよ?怒鳴ったら、帰ってもらうから」
精霊たちが一斉に静まった。
ガルヴァンは遠目にそれを見て、深く息を吐く。
「……王」
隣のリオンに低く言う。
「次に逃げたら、今度は檻だ」
リオンは苦笑しながら、精霊たちとラミを見つめた。
「……ありがとう、ラミ」
ラミは振り返り、クッキーを掲げた。
「王様、終わったら一緒に食べよ?」
「もちろん」
こうして、共和国最大の火種は、お菓子と円卓で話し合われることになった。




