第209話 ガルヴァン、ついに爆発する
その日、ガルリオン共和国の議会は静かすぎた。
誰も喋らない。
誰も資料をめくらない。
ただ一人、重い足音だけが響いていた。
ドン、ドン、ドン。
玉座の横、本来リオンが座るはずの場所。
そこに立つ男。
ガルヴァン。
目の下には濃い隈。
書類は腕に山のように抱えられ、服の下からでも分かるほど、肩が張りつめている。
「……まず、確認する」
低い声だった。
「王はどこだ」
議場が凍る。
文官が恐る恐る答える。
「え、えー……“重要任務”のため、本日は……」
「重要任務?」
ガルヴァンのこめかみに、青筋が浮かんだ。
「昨日は“動画鑑賞任務”一昨日は“心の回復任務”三日前は“私的精神安定業務”だったが?」
議員たちが一斉に視線を逸らす。
「……ワシはな」
ガルヴァンは書類を机に叩きつけた。
ドン!!
「三日で法案十七本!各族代表の喧嘩調停六件!精霊庁からの意味不明な請願二十三通!国境警備の再編成!税制改正!そして……」
一枚の紙を引き抜く。
「“王が議会に来ない理由についての説明書”を王の代理として書かされている!!」
爆発した。
「リオン!!」
議場に怒号が響く。
「確かにワシはリオンに何もするなと言ったが、余りにも国政を無視しすぎだ。貴様は王だ!!父親以前に、国家元首だ!!」
机を蹴り、椅子を弾き飛ばす。
「分かるか!?ワシは!王の背中を守るためにいる!!だが今は……」
ガルヴァンは天井を睨んだ。
「王の代わりに国を背負わされてる!!」
沈黙。
誰も口を開けない。
その頃、王都の一角。
リオンは動画を見ていた。
「……あ、今笑った」
ちょうどその瞬間。
ドン!!
遠くで、何かが爆発した音がした。
リオンは一瞬だけ眉をひそめ、
「……ま、いっか」
画面に視線を戻した。
議会にて。
ガルヴァンは深く息を吐き、椅子に座り直した。
「……以上だ」
そして、静かに言う。
「本日付で、王に通告する」
書類を掲げる。
「これ以上逃げるなら、余が王を縛ってでも議会に連れてくる」
誰も異議を唱えなかった。
夜。
ガルヴァンは王都の塔の上で、一人、星を見上げていた。
「……クソ」
小さく吐き捨てる。
「何もするなとは言ったがここまでとは……」
頭を押さえ、ため息をついた。
「ワシが壊れる前に戻ってこい、リオン」




