第207話 祝福は止まらない
王都ガルリオンは、壊れてはいなかった。
だが正常でもなかった。
精霊たちは去らない。
ただ、静かになっただけだった。
風は弱まり、光は淡くなり、土は動きを止めた。
それでも街の至る所に、精霊は“居座っている”。
『王が生まれた』
『王はここにいない』
『それでも、王はいる』
そんな囁きが、人々の耳元で、ずっと続いていた。
エルフたちも同じだった。
誰も武器を取らない。
誰も暴れない。
誰も街を壊さない。
だが、広場には人が集まり続ける。
祈り。
歌。
儀式。
それは暴動ではない。
抗議でもない。
ただの信仰の発露だった。
「王子を返せ」とも言わない。
「王に従え」とも言わない。
ただ、“待つ”それだけを、選んだ。
ガルヴァンは報告書を読み終え、重く息を吐いた。
「……鎮圧は不可能だな」
部下が頷く。
「王の命令がありません。違法行為もありません。精霊は……敵対していません」
「だから厄介なのだ」
ガルヴァンは椅子に深く座り込む。
「力で止めれば、こちらが“悪”になる」
「止めなければ、国の中心に“宗教”が育つ」
どちらも、最悪だ。
リオンは王都の執務室で、無線越しの状況報告を聞いていた。
街は平穏。
治安も維持。
死者なし。
だが……。
「……何も解決してないな」
彼は苦く笑う。
鎮圧していない。
説得もしていない。
ただ、存在を認めただけだ。
精霊もエルフも“王の判断を待つ”状態に入った。
それは、いつでも動き出せるという意味でもある。
王都の夜。
広場では焚き火が灯され、エルフたちが静かに歌っていた。
精霊たちは、その上空を漂う。
誰も命令していない。
誰も止めていない。
兵士たちは遠巻きに見守るだけ。
街は、嵐の前の凪のようだった。
リオンは窓の外を見つめ、低く呟いた。
「……暴動じゃない。でも、信仰は暴力より厄介だ」
ゼオンの存在は、もう“家族の問題”ではない。
この国の構造の問題になり始めている。
リオンは、次に来るものを理解していた。
(次は要求だ。言葉で、理屈で、正義で殴ってくる)
彼は椅子にもたれ、目を閉じた。
「……父親ってのは、本当に割に合わないな」




