第201話 宰相、議会で胃を殺される
ガルリオン共和国・中央議会。
朝から空気が重い。
理由は一つ。
最近、北部で「地形が変わった」という噂。
議員たちは着席しながら、ひそひそと囁いていた。
「森が一夜で出来たらしいぞ」
「精霊が騒いでるとか」
「王の関与が……」
その全てを、壇上から無表情で見下ろす男がいた。
宰相・ガルヴァン。
(……胃が痛い)
いや、正確にはもう痛みは通り越して、熱い。
「では、本日の議題に入る」
ガルヴァンの声は、いつも通り威厳に満ちていた。
「第一議題。北部地域の“環境変化”について」
内心で、胃が悲鳴を上げる。
すぐに一人の議員が立つ。
「宰相!北部旧狼族領にて、地図に存在しない森が出現したとの報告があります!」
「精霊の目撃証言も多数!軍の斥候が“入るな”と追い返されたとか!」
「これは国家安全保障に関わる事案では!?」
議場がざわめく。
ガルヴァンは、ゆっくりと頷いた。
「……事実だ」
一瞬、議会が静まり返る。
「しかし」
ガルヴァンは杖を床に打ちつける。
「敵対的事象ではない」
「なっ!?」
「森は、現在“精霊保護区域”として指定されている」
「保護区域!?いつ決まったのですか!」
「今だ」
即答。
議員たちがざわつく。
「宰相の独断では!?」
「議会承認を……」
ガルヴァンは、鋭い視線で黙らせた。
「承認が必要なら後で取る」
(後でだ……今は無理だ……)
「問題はだ」
ガルヴァンは一呼吸置く。
「この件を“政治問題”にするか、“宗教・精霊現象”として処理するかだ」
議員の一人が、恐る恐る言った。
「……精霊、なのですか?」
「精霊だ」
断言。
(半分は本当だ……半分は知らん)
「精霊側から、明確な意思表示があった」
「『我らの王が生まれる場所』だとな」
瞬間。
議場が凍った。
「……王?」
「誰の、です?」
ガルヴァンは、微笑んだ。
「精霊の、だ」
(頼むからこれ以上突っ込むな……)
しかし、議員は止まらない。
「しかし宰相!王都で先日、精霊が“祭り”を……」
「偶然だ」
即切り。
「……王陛下との関係は?」
ガルヴァンは、胃を押さえたい衝動を
意志の力で封じ込めながら言った。
「王陛下は……」
一拍。
「無関係だ」
嘘ではない。
直接は。
議会はざわめきつつも、宰相の圧に押され、沈黙していく。
「以上だ」
ガルヴァンは、締めくくった。
「北部の森は国家機密。立入禁止。噂の拡散は禁止。破った者は、厳罰とする」
議会は、最終的に承認せざるを得なかった。
会議終了。
ガルヴァンは執務室に戻るなり、
「……っ」
机に手をつき、完全に胃を押さえた。
「くそ……」
部下が駆け寄る。
「宰相!大丈夫ですか!」
「……医者は呼ぶな」
「ですが……」
「呼ぶな」
ガルヴァンは、苦笑した。
「医者に説明できる内容ではない」
その夜。
ガルヴァンは一通の極秘文書を書いた。
《精霊関連特別対応要綱》
副題:【王が増える可能性について】
最後に、こう記す。
【王よ。次に何か起きる前に、必ず私の胃に猶予を与えよ。】
王都のどこかで、リオンがくしゃみをした。




