第198話 精霊たちの祝祭
ガルリオン共和国・王都。
朝から、街の様子がおかしかった。
噴水の水が七色に揺れ、風が意味もなく花弁を運び、火の精霊が灯りもない場所で小さく踊る。
「……多くないか?」
城壁の上から見下ろしたリオンは、眉をひそめた。
見える、感じる、王都の至るところに精霊。
風、水、火、土。
さらに、普段は滅多に姿を見せない上位精霊まで混じっている。
街は完全にお祭り騒ぎだった。
『わーい!』
『ひさしぶりー!』
『王都ひろーい!』
人に見える精霊、見えない精霊。
子供のように笑い、踊り、屋根の上を跳ね回る。
民衆は最初こそ怯えたが、害がないと分かると、次第に酒と音楽が持ち出された。
「精霊祭りだぞー!」
「理由は分からんが、飲め!」
結果……即席の祝祭。
城内でも、事態は同じだった。
「リオンよ、これは……吉兆、なのか?」
ガルヴァンが腕を組んで問う。
「分からん」
リオンは即答した。
分からないことほど、怖いものはない。
その時、空気がすっと澄んだ。
王都の中央広場に、
一際強い存在感を放つ精霊たちが集まる。
淡く光る少年の姿。
翼を持つ少女。
角の生えた獣の影。
上位精霊。
『ねえねえ、人間の王さま!』
精霊の一人が、無邪気に叫んだ。
『おめでとー!』
『祝福だよー!』
『待ってたんだー!』
リオンは、嫌な予感しかしなかった。
「……何の話だ」
精霊たちは、一斉に声を揃える。
『僕たちの王さまが、生まれるから!』
広場が、静まり返った。
「……は?」
リオンの思考が、一瞬止まる。
「ちょ、ちょっと待て」
「王さまは一人だろ」
『いや、増えるんだよ!』
『生まれる王さま!』
精霊たちは、悪意ゼロで断言した。
『精霊に祝福される存在』
『世界に根を張る子』
『精霊界と現世をつなぐ王』
一つ一つの言葉が、重い。
「それ、誰の話だ」
リオンは、喉が乾くのを感じながら問う。
精霊たちは、首を傾げ同時に、笑った。
『リオンの子だよ?』
その瞬間。
リオンの背中に、冷たい汗が走った。
「……やめろ」
精霊たちは、不思議そうな顔をする。
『祝福だよ?』
『怖がることじゃないよ?』
「違う」
リオンは、静かに言った。
「それは“祝福”じゃない。標的だ」
王。
精霊の王。
そんな称号が付けば、どうなるか。
守れなくなる。
ガルヴァンが、低く唸る。
「厄介なことになったな、リオン」
「ああ……最悪だ」
王都では祝祭が続く。
酒と音楽、光と笑い声。
だが王城の一室で、リオンだけが胃を押さえていた。
(頼むから……)
(静かに、生まれてくれ)
その祈りが、世界に届くのかどうか……それを決めるのは、もうリオンではなかった。




